私も一応司法書士でありますので、たまには法律に関するテーマでお送りしようと思います。
但し、法律の話を長々としても、大抵の方は退屈してしまうと思うので、実務的な話というより、皆さんの興味のある部分でかつ皆さんの暮らしに役立つ内容を要約して、出来るだけわかりやすく説明していきたいと思います。
目次
「配偶者居住権」とは?
さて、法律コラムの栄えある第1回は「配偶者居住権」のお話です。これは2020年4月に施行された民法改正で新たに追加された条文(民法1028~1036条)です。
「配偶者居住権」とは、夫婦一方が所有もしくは夫婦で共有していた住居について、夫や妻に先立たれた一方配偶者に対し、ある期間そこに住み続けることができる権利を定めたものです。
例えば夫婦2人と子どもが1人いた場合、夫所有の自宅の価格が1,000万円、現金が1,000万円あるケースでは、夫が亡くなった場合、相続時にそれぞれ妻と子が各2分の1を相続しますが、夫と一緒に暮らしていた不動産を相続すると、現金は子供の方へ相続されるので、残された妻は生活に苦しくなるという事がありえます。(ここで「子供がきちんと援助すればいいのに、何を大げさな」、と思う方は非常に良い人ですし、その様な家族には無用の制度ですね。仕送りをしっかり年老いた母に行ってください。)つまり、配偶者居住権というのは、残された配偶者(特に中~高齢者)の居住権と老後の生活費を安定的に取得できるようにする制度といえます。
しかし、家族関係が複雑で離婚・再婚が絡んでくると、この当然のことが出来なくなる家族が多く出てくるのです。
イメージしやすいように、右の様な家族を例に挙げます。夫婦には既に独立して家庭を持った子供がいます。夫が建物と現金を残して死亡しました。(簡略化する為、妻の所有財産はないとします)価格はそれぞれ1,000万円です。
ここで、子供は既に自分の持ち家があるので実家には戻らないため、下図①のように自宅は母に相続してもらい、母親も自宅に引き続き住みたいと考えるので自宅を相続します。しかし、その様な相続では、母親の老後資金に余裕がなく、年金だけでは苦しい状況となります。
しかし今回の改正により創設された配偶者居住権(図表②)を利用すれば、この問題が解決することになります。
今回のケースでは、自宅に「居住権」という権利を設定し、息子にその権利がついた建物の所有権を相続してもらいます。「居住権」とは、その建物にその名の通り居住することができる権利です。
ただし、居住者たる配偶者はその建物を第三者に貸したりすることはできません。一方、子供が相続したものは「居住権」の負担がついた建物であり、その権利がついている間は処分に制限が掛かります。また、居住権者についても、その住居を無断で転貸したりできませんが、その分年老いた母親は安定的にその建物に住むことができるという事になります。この居住権には財産的価値が定められますが、法定の評価基準はなく、評価方法は実務上、配偶者の年齢などから算出されます。
本制度の特徴
配偶者居住権は、遺言や遺産分割協議の中で設定することができます。また、配偶者居住権の権利は登記で第三者に示すことができるので、非常に保護されやすいという特徴を有しており、結果として配偶者の老後の生活を保護する強力な手段となります。
また、「配偶者居住権」には短期居住権(1037条~1041条)も定められており、妻が相続開始時に夫が所有する建物に居住していた場合に、遺産分割されるまでの一定期間(例:相続開始日から6ヵ月間)その建物に無償で使用することができる権利もあります。これは、相続後バタバタした中で住まいを追われないようにするとする配慮の下に認められた権利です。
最後に
配偶者居住権について理解できたでしょうか?この権利は、適用できる条件があり、また設定することにより相続税額にも影響することから、弁護士、司法書士や税理士などの専門家に相談しながら進める事をお勧めします。もちろん、任意の制度ですので、冒頭に挙げたようにそのような制度を使う必要が無いというのであれば、もちろん利用しなくてもOKですが、お金や権利関係も複雑に絡むことも多いことから、その制度が皆さんのケースに適しているかの相談をしてみることをおススメします。