先日、ヤフーニュースにマンション界隈では有名なニュースが掲載されていましたので、今回はそれを絡めてマンション管理について語っていきたいと思います。
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みなオジはマンション管理士の資格を有しており、所有者として理事の経験もある事から色々なマンションの規約や管理体制を見てきているので、当初、興味本位でこの物件のトラブル事案を見ていたのですが、見れば見るほど根深い問題があるのだろうなと伺えました。
渋谷区の好立地なのに1700万円のマンション 破格の理由は大量の謎ルール
東京・京王線の幡ヶ谷駅から徒歩3分の好立地に、そのマンションはある。古びてはいるが南欧風の造りはオシャレと言えなくもない。名前は「秀和幡ヶ谷レジデンス」。1974年に建てられた戸数300の分譲マンションだ。ただ、異様なのは周りに有刺鉄線が張り巡らされ、複数の監視カメラが来訪者を睨んでいることだ。
「あそこは他のマンションと違ってさまざまな制約があるんです。だから、事情を説明すると契約が白紙になることが少なくありません」(中略)
それもあってか、値段もパッとしない。不動産サイトを見ると約40平方メートルで1700万円。 「古さを考慮しても、この立地なら普通2千万~2300万円はするはずですが……」(不動産コンサルタントの森島義博氏)
引用元:ヤフーニュース11/23(火) 10:56配信
目次
あこがれの秀和ブランド?
ちなみに秀和レジデンスは、有名なマンションブランドです。もちろん、上記の様な物騒(奇怪)な話題で有名になった訳ではなく、秀和が企画したマンションは特徴があり、デザイン的に目を引く事から、都内に住む人であれば一度は見たことがあるのではないでしょうか。外観の特徴はヨーロッパの貴族の邸宅風の青い瓦屋根と白い塗り壁、バルコニーには独特な形の鉄柵がある、古いけど独特な雰囲気を醸し出す(物件によってはヴィンテージ化している)マンションです。秀和シリーズは全国に131棟あり、その多くが「渋谷区・港区」といった都内一等地に集中している事から、高級マンションのイメージがついており、その特徴的な外観から「秀和マニア」が賃貸で色々な秀和物件を移り住んでいるとの噂もあるほどの有名マンションなのです。秀和レジデンスを企画したのは、1980年代に全盛を誇った今は亡き不動産デベロッパー「秀和株式会社」です。
不可解な規約例
秀和幡ヶ谷レジデンスにおける管理組合のゴタゴタ話は今に始まったものでは無く、これまでも怪文書騒ぎ等で一定の頻度でニュースになっていました。暴露系サイトを見ると、「友人を自宅に止めようとしたら宿泊料(という名の罰金?)を請求された」など、信じられないようなルールがあると記載されています。
にわかには信じられないと実際にSUUMO等の物件サイトを見てみたのですが、賃貸物件での掲載がありますが、その条件に「管理組合への借主負担金」として引越時及び大型家具・家電搬出入時に都度5千円、表札代1320円税込(※申込後、管理組合の審査有)等と、見るからに香ばしい条件が羅列しておりました。
ちなみに根拠というのは、バルコニーの物干しを禁止する規定を例にとると、左記規定はタワマンを中心に結構ありますが、これは物干しをすることにより落下物の危険がある、マンションの美観を損なう、そもそも自治体の総合設計計画の許可要件で物干し台が設置できない等の根拠に基づき規定されるもので、決して理由なく設定されるものではないのです。
それに比べて、引越時及び大型家具・家電搬出入時に都度5千円というのは、仮に組合が養生をするための費用だとしても、通常は運送業者が養生を行うはずですので、業者が養生を行わない場合に限って請求すれば良いだけです。また、友人を呼んで宿泊料を請求というのも、そもそも所有者や賃借人の知人を専有部分に泊まらせるというのは居住目的の延長上(つまり民泊ではない)なので、管理規定で制限する事はできないですし、館内で騒がれたり、隣人トラブルが生じることを危惧(抑止力)とするなら、「預り金」(何かトラブルがあった場合は没収)という形で一時徴収すれば良いだけの事です(それでも、かなり異常ですが…)。
バランス釜変更不可って…
個人的なビックリポイントは、上記の賃貸募集の画面にある通り、風呂が「バランス釜」である事です。そして、管理規約によるとバランス釜から変更できないとの事…現代の令和の世の中で「バランス釜」っておかしいでしょ??理事は文明の利器を否定するお立場なのでしょうか?賃貸借契約書内で賃貸人が設備の変更不可という条件を出すことはあっても、管理組合が共用部分以外の仕様・設備にNG出す事は、(危険物や騒音を生じる機器を取り付けようとする場合でない限り)ありえないと思うのですが…とにかく理解の常識を超えてきます。
バランス釜は、バランス型風呂釜の通称で、自然給排気式の給排気を採用したガス風呂釜である。 1965年にガスターが他に先駆けて開発したこのバランス釜は公団住宅向け需要を中心に全国的に普及していったが、その後は屋外壁掛け式の給湯器が主流となったために衰退傾向にある。 これは、住宅の集中給湯システム化が進んだことやバランス釜の多くの欠点が忌避されたことなどによる。 そして、1990年代以降に建築された住宅では、バランス釜はほとんど見られない。 |
欠点 ・設置箇所は浴槽の隣りでなければならず、レイアウトの自由度に欠ける。 ・浴槽には追焚用として2つの開口が必要で、ユニットバスには対応できない。 ・一般的な給湯器と比べバーナー容量が小さく、湯張りにかかる時間が長い。 ・点火操作を何度も繰り返すと未燃ガスが機器内部に溜まり、異常着火による爆発事故を引き起こす場合がある。 |
洗い場が狭くなるというのもデメリットとして十分なのですが、何より「爆発事故を引き起こす場合」がある?!いやいやいや、マンション全体の保安上の問題でもありますし、交換費用は所有者持ちなんだから、普通に給湯器に交換させてあげればと思うのですが。
マンション内は一定程度の私的自治は認められるが…
マンションの規約は組合員の(特別)決議で変更する事が出来、基本的にマンション内の自治は管理組合に委ねられてます。みなオジはこのマンションの管理規約を見ていないので何とも言えませんが、いくら住民自治で制定された管理規約とはいえ、あまりにも根拠がない規定、請求金額が法外なものについては権利の濫用として無効である可能性が高いと考えます。
また冒頭の記事によると、この物件は6人の理事が20年以上実権を握っている様で、きちんとした自治体制が敷かれているか疑問が残ります。理事の選任方法が管理規約に則っていない場合(例えば、「理事の選解任は理事長の専決事項である」とすることは無効)は、組合決議そのものに瑕疵があるとして、決議の取消事由になるケースもあり得ると言えます。
管理会社は存在するの?
他のマンションでは中々お目にかかれないような怪条件があるのは、このマンションの管理を一般の管理会社に委託せず、管理組合が「自主管理」で行っているからです。
秀和幡ヶ谷レジデンスの分譲当時は、おそらく管理会社に業務委託してマンション管理を行っていたと思われますが、どのタイミングで自主管理に切り替えたのでしょう。具体的な理由は当事者ではないのでわかりませんが、管理費を浮かせようとしたか、管理組合(もしくは理事)と管理会社との関係が上手くいかなくなって、業務委託を解除したか(もしくは管理会社から断りをいれて辞任したか)でしょう。
マンションは管理を買え
中古マンション選びの格言で有名なものに「マンションは管理を買え」というものがあります。これはマンション管理士としても、その通りだと思います。自主管理の全てがダメとも思いませんが、管理会社もその道のプロです。これまでに蓄積されたノウハウは素人のそれとは異なるのです。
とある失敗例で、建設会社にお勤めの方が建物に詳しいからと組合理事を買って出て下さるケースがあります。その方は軽微な修繕やメンテナンスについての知識や費用の相場感覚はあるので、積極的に対応をしてくれるのですが、その知識を振りかざして「もっといい案があるはずだ」と担当者の提案に何度もダメ出しし、ついには管理会社と対立したり、発注者の様な態度をとってしまい、修理業者やメンテナンスの業者に対し横柄な態度で何度も値下げを強要するなどして、トラブルの原因になったケースもあります。
ある意味、第三者的にふるまう管理会社の立ち位置というのも緩衝材としての意義があるのです。理事という肩書で思わず業務執行したくなる気持ちは分かりますが、実際の役割としては管理会社の監督者兼最終決定者くらいでちょうど良いというのがみなオジの考えです。
マンションの理事もつらいのョ
タワーマンションなどの大規模物件では月の管理受託料が2千万円に届くかという所もあります。これを、自主管理で行うのを住人の立場で行うのは精神的にもしんどいです。管理費を下げようと安易に委託事務を削ったりすると、管理業務のどこかにひずみが出てしまうのです。
とあるマンションで、マンションコンシェルジュに日本語・英語・中国語のトリリンガルを配置していた事もあり、その人件費が高いと感じた理事が、日本語と英語だけで良いからとその分安い人員で回す様に提案をすると、住人の中国人から大バッシングを受け、総会が大紛糾したというケースがありました。
この様に理事をこなすだけでも負担は大きいですし、良かれと思って提案したことが他の住人の反感を買う事もあるのです。上記の様に組合総会でつるし上げられるかも知れませんし、理事同士で対立が起きて最悪の場合、横領の疑いを掛けられたり大変です。
仕事で行うなら報酬もあり、多少の摩擦があってもドライにこなすこともできるでしょうが、日常居住するマンションですので、住人間の損得が絡み合うトラブルに巻き込まれては、もはやそのマンションに住むことすら苦痛になります。こうして、住人誰もが組合活動に無頓着になり、今回の様な専横的な組合理事が誕生したというのは容易に想像が出来ました。
秀和幡ヶ谷レジデンスのトラブルの行方
今回の記事は、以下の様に結ばれています。
異変が起きたのは11月6日のこと。組合の総会が開かれ、前理事会に反発する住民らで構成された「秀和幡ヶ谷レジデンスを救う有志の会」に推された新理事が役員の過半を占めたのだ。(中略)
「新しい理事はルールの緩和を掲げています。これで本来の値段に戻るかもしれません」
引用元:ヤフーニュース11/23(火) 10:56配信
ようやくマンション自治を取り戻した住人たちの非難をするつもりはないですが、マンションという安くない資産価値を下げる様な独裁を少数の理事に握られていたのは、ひとえに所有者自身の無関心に外なりません。おそらく、この様な変な規約は1年やそこらでできたルールでは無く、長い年月をかけて徐々にエスカレートしながら形を変えてできたのではないかと思います。(標準管理約款を使用していて、慣習的にマイルール(左記の張り紙)を強要されていたという噂もありますが、みなオジからしたらどちらでも同じです。)
今回、無事に収束してよかったなぁと思う反面、「有志の会」の初動の遅さで20年間もこの状況を改善できなかったというのはあまりにもお粗末すぎると感じました。おそらく、この状況に嫌気がさして、安値で売却してしまった所有者もいるでしょうし、学生寮みたいなルールで退去した賃借人も多いのではないかと思います。
実際に風評被害が生じて取引価格も大きく下がっているという実害も生じている訳だから、自治を取り戻しただけでなく旧理事に対する損害賠償請求も視野に入れて責任追及しなければ、また同様の状況に陥るのではないでしょうか。