皆さんは会社で取引を行う際に企業調査を行っていると思いますが、意外とその方法は会社ごとに異なっていて、決まった形が無いものです。多くはTDBやTSRなどの調査会社のレポートを使う外部調査ですが、取引前に多くの経費を掛けられない企業は自社内で調査したり、BtoCビジネスの会社では社内のデータに顧客情報という形で管理している会社も多いでしょう。
調査方法 | 調査内容 |
内部調査 | 過去に取引実績のある会社の場合は、社内の担当者(営業部)にヒアリングする。企業規模が大きい場合は関連会社や子会社の担当者にもヒアリングを行う。 |
直接調査 | ・担当者(法務、営業、債権管理、調査部)等が取引相手を情報をチェックする。 ・社内に蓄積されたデータベース(顧客情報)を基に確認するケースや取引先への訪問、電話、面談する。取引条件として「業務実態が分かる資料」(会社のパンフレットや会社登記)の他、「反社会的勢力の排除に関する誓約書」等を提出させるという審査ポリシーを有する企業もある。 |
外部調査 | データベース(有料・無料)を利用してネガティブ情報の照会をする。 メインバンクに側面調査を依頼するケースも。信用情報機関のブラックリストチェックも外部調査に含まれる。 |
依頼調査 | 調査会社に調査依頼を行い、直近の経営状況を確認する方法。 |
今回は企業調査の中でも、調査の負担と費用が少ないが効果は抜群という会社の登記事項証明書を活用した企業調査について記載していきたいと思います。もちろん、全てのチェックを漏れなく行う事で完全な企業調査が可能となりますが、全部行うと会社の負担が膨大になります。(特に個別に調査会社に調査依頼を掛けると1件につき2~3万円、特急対応を依頼すると更に+αのオプション料金が掛かります。)
ちなみに司法書士の場合は犯収法で本人確認が義務付けられているので、最低限(意思確認も含めた)面談を行い、個人のID(証明免許証、保険証)を確認する手順になっているはずです。
関連過去ブログ:司法書士の決済立会業務とは(犯収法について)は→コチラ
目次
なぜ企業調査が必要か
取引に入る前に相手会社の調査をするの理由は「与信状態の確認」と「反社チェック」の二つです。また、反社ではないにしても悪質なクレーマーだったり過去に揉めた事がある取引相手の場合は企業調査の段階で「取引不可」の判断を下さなければならないといけない事もある事から、事前に属性をチェックする必要があるのです。
上記で挙げた様に企業調査の方法は色々ありますが、会社の規模により事前調査に掛ける事ができるお金や時間は異なります。その点登記事項証明書の取得は費用対効果に優れた調査ツールですが、担当者に登記の知識が無いと大切な情報を見落としてしまう可能性が高いというのが難点です。
登記事項証明書とは
登記事項証明書(以下、会社登記)には不動産登記と会社(商業)登記があります。会社登記とは会社の状況(本店所在地、資本金額、代表者名、代表者住所)が記された公的な証明書(記録)です。公開情報なので、不動産、会社どちらの登記についても誰でも取得・閲覧することができ、取引前の企業調査によく使われる情報となっています。
もちろん、「相手先のHP(WEBサイト)」も企業調査の参考になりますが、HPは企業側が自由に作れ、都合の悪い所は省くことができるので絶対的な信頼はおけません。一方で、登記は法律で登記事項が定められており、都合の悪い情報だけ省いたりすることはできません(形式的ではありますが、登記の申請内容は登記官が確認します)し、虚偽内容を申請すると罰則(公正証書原本不実記載罪)があるため一般的に信頼性がある書面となります。(ただし、記載された本店所在地はダミーというケースもあるので注意。)
刑法第157条 第1項 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、または権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせたものは、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。 |
会社法代976条1号 発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役(中略)は、次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。 一 この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。 |
会社登記の取得方法
書類の電子化が進み電磁的記録で管理されているので、法務局の窓口では書面を交付できる他、郵送申請も対応しますが、スピードと手軽さを重視するなら「登記情報提供サービス」や登記オンライン申請システム(登記ねっと)を利用するのが良いでしょう。
ちなみに上記の二つは異なるサービスで、登記情報提供サービスは照会番号を付すれば行政機関等に対する一部の手続で証明書の代わりに添付することが認められる取扱いもありますが、登記官の認証印が押されていないので、一般的に公的な証明(登記申請の添付情報)には使えませんし、民間も公的なエビデンスとして認めていないケースが多いです。登記情報提供サービスはインターネットを利用して利用者が自宅や事務所等のPCでその内容を確認できるという登記情報閲覧サービスと覚えておきましょう。
会社登記の4種類の登記事項証明書(履歴、現在、代表者、閉鎖)
左の画像は会社の登記事項証明書の交付申請書です。会社登記を取得する際にまず悩む点としては、この申請書を記載する時でしょう。会社登記は「全部事項」と「一部事項」に分かれ、更に履歴事項、現在事項、閉鎖事項の区分けで取得する事が可能です。(古い言い方ですが、全部事項証明は「謄本」と、一部事項証明は「抄本」とも呼ばれます。また、「概要記録事項証明書」は「債権譲渡の登記事項」となります。)
取引先の信用調査をするなら上記の内「履歴事項全部証明書」を取得するのが良いでしょう(逆に言えば相手から会社登記を要求された場合も「履歴事項全部証明書」を渡せば問題ありません)。
履歴事項は会社登記請求日の約3年前からの変更履歴についての情報が記載されているものなので大抵の確認はこれでカバーできるでしょう。
企業調査でチェックすべきタイミング
基本的には取引前に行う事が重要ですが、法人が絡む事件報道があった場合はもちろん、役員の不祥事やトラブル報道をキャッチした時も詳細確認をする必要があるでしょう。
報道初期の段階では会社登記に現れる内容は少ないですが、それでも不穏な情報が流れる前後にはその予兆(本店移転、役員変更、本店住所、代表者住所の不動産登記)も確かに表れてくるものなのです。
会社登記のどこを見る?
登記簿にすべての情報があるわけではないですが、以下の部分に着目することによって怪しい匂いを嗅ぎつける事ができます。
本店の移転履歴
法務局の管轄を跨ぐ本店移転(例:渋谷出張所(渋谷区)→城北出張所(足立区、葛飾区))すると、従前の登記簿は閉鎖され、移転先の法務局で新たに会社登記が作成される為、詐欺的な行為を繰り返す企業は本店を転々と変更するといったケースがあります。とはいえ、1回程度の本店移転はあり得る事ですので、閉鎖された登記簿も確認する事で繰り返し本店移転がされていないかをチェックする事が必要です。
また、同一管轄の本店移転でも、例えば六本木ヒルズの立派なオフィスから、1Rマンションやレンタルオフィスの住所に移転している場合は、資金繰り等与信に重大な問題が生じている可能性がありますのでこちらも注意が必要です。
休眠会社における登記の特徴
休眠会社とは、事業活動は行っていないものの解散登記や清算登記までは行わずにいる会社を指します。会社を休眠させるには、管轄の税務署に休業する旨を記入して「異動届出書」や「給与支払事務所等の廃止届出書」等の所定の届出書を提出するだけですので、簡単に休眠状態とすることができます。(ただし最後に登記を行った日から12年以上経過している場合は「みなし解散」として職権(登記官の権限)で解散登記がされてしまいます。)
コロナの影響もあるでしょうが、令和に入って株式会社のみなし解散は毎年30,000件程度(法務省HPより)ある事から、休眠会社を利用した登記に出くわす可能性もそれなりにあるのではないでしょうか。
問題なのは、悪徳業者の中に、休眠会社を買取って企業活動を行う者がいるという事です。(休眠会社のブローカー(経営コンサル?)も存在します。)休眠会社が犯罪に使われる理由は、社歴の長い会社ほど信用が高いという錯覚に陥りやすいからです。つまり相手を信用させ騙しやすくするために、歴史の長い会社を手に入れたいのです。
宅建業を営む不動産会社が免許番号(の若さ)と更新番号(回数)を信頼の証として誇る風潮があるのと似たような感覚でしょうか。(みなオジも1R業者に100回くらいアピられた経験がありますが、これも老舗の不動産の休眠会社を手に入れれば、免許番号も一緒に手に入る訳で、これを鵜呑みにするのは早計です。)
役員欄
休眠会社を買取った場合における当該会社登記の特徴は、商号、目的、役員欄に現れてきます。例えばこれまでの役員が一斉に退任し、メンバーが一新した就任登記が入るというのが良く見られます。しかも、設立以来40年間ずっと同族経営だったのに、急に姓の異なる代表取締役が一人だけ就任登記されたケースは特に怪しいと言えます。
目的欄
また、従前は「日用雑貨の販売」「食料品の卸及び小売」だったのが、「美顔器、化粧品の輸入販売」「美容セミナーの開催」等に変更された様に、役員変更と同じタイミングで目的欄もガラッと変更しているといったケースが見られます。
また、設立年月日が古い(歴史がある)のに、最近になって急に「ウェブページの作成、ダイレクトメール広告の企画提案」といった今どきの目的に変更された場合も休眠会社を買取った可能性が高いと言えます。
商号欄
休眠会社かどうかに関わらず、商号変更が多い会社は怪しんだ方が良いでしょう。某宗教法人ではありませんが、商号変更の理由は主に過去のトラブルや事件報道で悪名が立ってしまった事から、そのイメージを払しょくしたいという事情がほとんどと言えます。
また休眠会社を買取った場合、ほとんどの場合、目的と同様に商号変更も行うこととなりますが、前商号と繋がりのない商号になることが多いはずです。
ちなみに、新商号が旧商号と関連ある商号でないから即怪しいという事ではなく、ユニクロの運営会社である株式会社ファーストリテイリングは小郡商事株式会社(現会長の柳井さんの伯父が創業し、父親が受継いだ会社)から商号変更をしています。この事例では外見上は商号の繋がり・関連性は見られませんが、あくまでも休眠会社にはそういう傾向がみられるという話で「繋がりに注意」する事を心に留めていただければOKです。
登記の間隔にも注意
休眠状態の会社の場合でも登記法上は役員の変更登記(取締役で原則2年の任期、非公開会社の場合は最長10年まで任期を伸長可)を行わなければなりませんが、実態上、取締役の退任・重任の変更登記を長年放置している会社が多い事から、役員変更登記の間隔が長い場合は、現在の運営者が休眠会社を買取った可能性が高いです。
仮に休眠会社では無かったとしてもこの経営者は違法な登記懈怠状態を許容していたと言え、いずれにせよ杜撰な経営を行っている好ましくない会社であると言えるでしょう。
一応断っておくと、持続化給付金・事業復活支援金などの不正受給で休眠会社をペーパーカンパニーとして使い、さも活動実態があるが如く申請した事例が多く摘発されており、その他多くの詐欺事件でも休眠会社が多く使われているケースがある事から注視する必要性があると言っているだけで、休眠会社を取得する事自体が問題と断じている訳ではありません。
また、休眠会社の他、違法な会社乗っ取りのケースでも、登記上にそれなりの兆候(例:役員が一斉に入れ替わった等)が見られる事から、色々な可能性・事態を想定して企業調査を行って欲しいと思います。
関連過去ブログ:事業復活支援金については→コチラ
ケース分け対応法
ここからは具体的な情報を入手した時に、会社登記のどこを確認するかについて具体的に考えてみたいと思います。
代表者と同一氏名が関与した事件報道があった場合
外部の会社情報サイトや検索エンジンで代表者氏名を検索した時に、何らかの事件が検索された場合の対応ですが、まず同一人物かどうかの確認を行いましょう。
よくある名前の場合は同姓同名の可能性もあるので、まずは代表者の住所を確認(会社代表者は氏名のほか「住所」も登記事項)し、報道された容疑者・被告住所と登記簿上の役員と一致もしくは近接していれば同一人物の可能性が高いとして、その後の判断を進めていくことになります。
会社法第331条では会社法関連の違反を犯した者は「役員の欠格事由」に該当すると定められているので、事件の近辺で「資格喪失」を原因とする役員変更(退任)登記がされている場合は、関連を疑いつつ更なる裏取りを進めていくことになります。なお、判決確定前に「辞任」することが多いので事件報道の前後に辞任登記がされている場合も、同一性を疑いつつ、慎重に対応を進めましょう。そして同一性の判断なされた場合は犯罪内容とその後の経緯により判断を行います。
会社法第331条 三 この法律若しくは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の規定に違反し、又は金融商品取引法(中略)の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者 四 前号に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。) |
会社法犯罪を犯した取締役は、刑に処せられた場合は何であれ欠格事由となるので、罰金刑でも執行猶予期付判決でも欠格事由に該当する事になります。ただし執行猶予期間が経過すると、刑の言渡し自体が失効する事から、会社法違反で執行猶予期間を満了したと同時に取締役に復帰できます。(つまり執行猶予期間経過の日は「刑の執行を受けることがなくなった日」に含まれないという事。)
なお、暴行罪で起訴されて執行猶予付き有罪判決になった場合は会社法関連の違反ではない(刑法第208条)ので、執行猶予中(刑に処せられていない)でも欠格事由に該当せず取締役に留まる事が可能です。(禁固以上:刑務所に入ったら実質的に経営できないから欠格としますという事ですね。)
ちなみに、役員の不祥事が企業調査にどの様な影響を及ぼすかについて、会社の規定で定めている企業は意外と少ないのではないでしょうか。
コンプライアンスの観点で反社組織と取引を行わないことは当然ですが、上記のように代表者が暴行罪で罰金刑を受けたという理由までその判断を拡げることは、そもそもそのような役員を欠格事由に該当していないことを鑑みれば、いささか過剰かも知れません。ただし、その個人の知名度など社会的影響力が大きく、レピュテーションリスクが高い等の個別具体的な事情があるならば、その時点で企業判断で取引の可否を判断すれば良いのではないかと考えます。
場合によっては閉鎖事項証明のチェックも
他の情報源(報道や同業者からの風評等)から当該会社及び代表者につき懸念点が生じているものの、履歴事項証明からだけでは判断が付かない場合は、会社登記を更にさかのぼって確認をするのも有効です。昔の事件の場合は履歴事項にも載っていない可能性があるため、閉鎖事項証明書を取得して確認する必要があります。(なお、閉鎖事項証明の保管期限は20年。)
会社登記の構成
いい機会なので会社登記の記載事項をいかにまとめてみました。商号区や目的区はどの会社にも必ず記載がありますが、役員責任区や会社支配人・支店区などはそれらの規定を置いていなければお目にかかることもありませんし、人によっては初めて見たという項目も多いのではないでしょうか。
会社法人等番号 |
【商号区】主な記載内容は、「商号」「本店の所在場所」「会社の公告方法」「貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項」「会社成立の年月日」。 なお、2022年9月から定款の定めに基づき、株式会社、特例有限会社の取締役が株主総会資料の情報を自社ホームページ等に掲載し、株主に対してそのアドレス等を株主総会招集通知に記載した場合には、株主個別の承諾が無くても、取締役は、株主に対して株主総会参考書類等を適法に提供したものとする電子提供措置の制度が施行されたことを受け「電子提供措置に関する規定」も追加されました。 |
【株式・資本区】主な記載内容は、「単元株式数」「発行可能株式総数」「発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数」「株式発行会社である旨」「資本金の額」「発行する株式の内容」「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」「株主名簿管理人の氏名又は名称及び住所並びに営業所」「株式の譲渡制限に関する規定」 |
【目的区】「目的」 |
【役員区】「取締役、監査役、会計参与、会計監査人等の氏名及び住所及び就任、退任の年月日」 |
【役員責任区】「役員が会社に対して損害賠償責任を負うような場合に、会社法の規定により、その責任を免除したり、一定水準に制限する旨の契約などがされている場合、その旨」 |
【支店区】「支店を置いた場合、支店所在地」 ※2022年9月より「支店所在地」における支店登記は廃止(本店所在地では引き続き支店登記の申請が必要となります。) |
【会社支配人区】「支配人の住所や氏名と選任されている営業所の住所」 |
【会社履歴区】「会社の合併や分割等があった場合、その旨」 |
【会社状態区】「取締役会設置会社である旨」「監査役設置会社である旨」「委員会設置会社である旨」「存続期間の定め」 |
【登記記録区】「登記記録を起こ(閉鎖)した事由及び年月日」 ※年月日○○県○○市へ本店移転(したことにより、この会社登記は閉鎖。)と読みます。 →つまり、この会社登記は「閉鎖事項証明」だと分かります。 |
与信不安情報が流れてきたケース
取引先に関して与信不安がある場合の会社登記への影響を考えます。まず、本店、支店のオフィスが自社ビルであるという場合は、本店所在地や支店所在地の不動産登記を確認してみましょう。また、非上場会社の場合は代表取締役の住所の不動産登記も確認する必要があります。
会社の資金繰りが苦しく、支払い遅延が生じている場合は差押・仮差押えの登記が入っている場合もありますし、そこまで悪化していなくてもノンバンク系(高利貸し)の担保権が設定されているケースもあるでしょう。また、非上場会社の代表者であれば個人保証を行っている事から自社ビルと同じく差押えや担保権が設定されている可能性が高いです。
また、役員も将来の展望が無いと次々と会社を見限って辞任するかもしれませんし、経営不安の責任追及で株主総会で解任動議も続出しているかもしれませんので、役員欄が落ち着かない場合も与信不安を疑うべきでしょう。
代表者住所は本当ではない可能性も?
毎度毎度行う必要はありませんが、上記に挙げた様に休眠会社を使っている形跡が見られる場合や会社乗っ取りが窺える場合くらいは、代表者にアポイントを取って直接面談したり、代表者住所として公示されている場所に訪れてみる必要があるでしょう。
また、適切に就任意思を有する代表者であっても、居住実体のない住所を代表取締役の住所として登記する事が可能なのです(代表者住所と会社の本店所在地を同じとしている人も)。
会社に対して訴訟を起こす際、本店が事業停止でもぬけのカラになってしまっている事も考えられ、その場合は代表者の住所を裁判管轄を決定し、訴状の送達を行なわざるを得ないので、与信に不安のある会社と取引する場合は、生活実体のある居住場所を特定しておく必要があります。また、物理的に代表者のガラをすぐに押さえられるというのも意味があります。(とはいえ、夜逃げされたら終わりですが。)
役員の名義貸しを疑え
会社代表者の就任登記については基本的に印鑑証明書(就任承諾書に押印した個人の実印)を添付する必要があり、印鑑証明書の添付が必要ではない場合は本人確認書類(住民票、戸籍の附票、運転免許証等の写しのいずれか)が必要となるので、架空の人物を登記する事は出来ませんが、逆に言えば印鑑証明書と実印を工面できればなりすましで代表者の就任登記は出来てしまうという事になります。
もちろん、勝手に役員として登記されたり、就任承諾していたが実質的に経営に関わっていなかったとしても会社代表者として名義貸しした者の責任は追及される(不動産登記と異なり、会社登記には公信力がある(会社法第908条第2項、商法第9条第2項))ので、債務者や損害を被った取引先はその者に損害賠償請求する事ができます。
しかし多くの場合、名義貸しで登記された者には弁済の資力が無いことがほとんど(借金のカタに免許証や印鑑証明書を手渡したり、お金に困ってこれらを売っていたりする)ですので、責任追及できたとしても結果として取りっぱぐれてしまう事になるのです。
虚偽の登記は罰則の対象となるので、思わず会社登記を信用してしまいますが、そもそも詐欺集団は一儲けした後は逃げる事を前提としているので、登記の虚偽申請を行う事はある意味織り込み済みという事になります。
皆さんが取引を始める場合は、会社登記などの書面審査だけに頼るのではなく、自分の目で所在確認を行い面談を通じて相手の主張に矛盾点が無いかを確認する作業が大切なのです。
代表者住所が非開示になる?
先述の「登記情報提供サービス」についてですが、実は閲覧内容に関して登記事項である代表者住所の記載を非表示とする予定でした。(代表者住所を非表示とする省令案は2022年2月に公示され、9月1日に施行の予定でパブコメの手続きを行っていましたが、反対意見が予想以上に多かった様で、その省令案を転じ、これまで通り表示することになりました。)
「個人のプライバシー」<「会社債権者保護」という意見が多かったようですが、例外的にDV被害者の住所表示はされなくなっています。そもそも、登記事項証明情報には代表者住所は記載されているんだから閲覧情報だけを制限しても意味ないと思うのですが…
登記情報提供サービスは2022年10月より利用時間の拡大(平日は午後11時まで、土日は午後6時まで)し、より利便性を重視したシステムとなっています。残業時間や休日出勤時でも確認する事ができて、便利になったんだかいつまでも働けという事なのか分かりませんが、より利用頻度が増えそうです。(登記情報提供サービスHP:登記情報提供サービスの利用時間の拡大について)
点でなく線、場合によっては面で会社を調査
代表者しか検索しない場合もありますが、徹底するならその他の取締役の氏名も確認すべきでしょう。代表者が中居であるA社を調査する場合、中居が複数の会社(A社とB社)を経営しており、過去にB社が債権不払いなどを理由として取引NGの判定を受けていれば、当然A社も取引に際し懸念が窺えるという判断となるでしょう。
ただし、中居が代表を務める会社Bの取締役木村にA社の社長をさせている場合は、代表者の氏名だけでは検索に引っ掛けることができないでしょう。この様に人的資本を含む資本関係を有する場合も本来は慎重に判断をすべきです。(ちなみにこの場合は「取引をしないという判断」ではなく、未払状態の解消を条件に取引を開始すれば良いと思われます。)
そういう意味で会社登記は資本関係を直接表す機能は有していませんが、先ほどの様な役員の重複(過去の就任状況も見ます)や本店や支店所在地が同じ場合は何らかの関連が予想できます。
また、「会社分割」や「株式交換」の記載によって親子会社関係、兄弟会社関係も確認できる事から、前出の【会社履歴区】にあるマイナーな記載でも見落とさない事が大切です。(マイナー故に目に付くという事も多いかもしれませんね。)
この様に会社の調査は「点」で行うのではなく、「線や面」の多角的なつながりで確認を行う作業です。会社登記はたかだか数ページ(多ければ何十ページにも及びますが)の情報ですが、深く読み込めば色々な事実が浮かぶコスパの高い調査ツールとなりますので、数多く登記を眺めて経験を積んで欲しいと思います。
もちろん会社登記の確認だけで調査は完結するものではありませんので、その他の情報や人を介した現地確認等と組み合わせて調査を行う事が肝心です。