2020年4月に「住宅用家屋証明書」の取得条件が緩和されました。
「住宅用家屋証明書」とは、登録免許税の軽減を受けるために必要な書類で建物が存する自治体が発行する登記所に宛てた証明書です。取得の可否は、登記申請の際に必要な登録免許税の金額に影響します。司法書士であれば腐るほど見てきた書面と言えるでしょう。
通常、不動産を取得すると建物・土地については所有権移転(新築建物の場合は所有権保存)登記を申請して買主の権利を公示しなければならず、住宅ローン等借り入れを行った場合は、抵当権設定登記を申請する事になります。通常、所有権保存登記では課税価格の0.4%(所有権移転登記は2%)を乗じた額を、抵当権設定登記は借入額の0.4%を登録免許税額として国に納めなくてはいけません。
しかし国は持ち家政策の推進の為、個人が専ら居住の用(居宅であってもセカンドハウスや不動産投資用はNG)として不動産を購入する際は、軽減税率を適用するものと租税特別措置法で定めており、所有権保存は0.15%、所有権移転は0.3%、抵当権設定では0.1%と低い税率で登記申請する事ができるのです。乗ずる金額が何千万円単位なので、減額の幅はかなり大きなものとなります。
その為、この特典を不正に享受しようとする輩も想定されることから、軽減税率適用に一定の条件を設け、申請時に公の機関が「当該物件は買主が自ら住居として使うものですよ」とその書面で証明を必要としたのです。
住宅の購入は一生に一度あるかどうかで一般の方には縁遠いものですが、改正のタイミングもあるので、登記実務と絡めて住宅用家屋証明書について解説したいと思います。
目次
改正の内容
住宅用家屋証明書取得については「住宅として求められる要件」が定められており、床面積(内法面積)が50㎡以上の他、木造および軽量鉄骨造では新築後20年以内、鉄骨造、鉄筋コンクリート造等えは新築後25年以内という「築年数要件」がありました。
しかし改正により、2022年4月以後に家屋を取得した場合は取得後 1 年以内の家屋、もしくは昭和57(1982)年1月1日以降に建築された家屋、ただし昭和56年12月31日以前に建築された家屋に該当する場合でも①耐震基準適合証明書(租税特別措置法施行令第42条第1項に定める基準)②住宅性能評価書(住宅の品質確保の促進等に関する法律第5条第1項に定める基準)の写し③住宅瑕疵担保責任保険法人が発行する保険付保(ふほ)証明書の写しのいずれかを添付する事で家屋証明を取得する事が可能です。
なので、改正後は築40年の中古マンションの売買でも証明書取得の対象となり、登録免許税の優遇を受ける事ができるのです。
家屋証明取得とジレンマ
冒頭でも記載したとおり、司法書士にとって住宅用家屋証明(昔は「専用住宅証明書」という書類名)は基本中の基本であり、取得の要件や申請方法については司法書士手帳の「住宅用家屋証明事務取扱要領」に記載されています。
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ちなみに自治体によって提出書面(例:売買契約書だけでは「取得日」が分からないとして、登記原因証明情報(売渡証書)等も付ける事といった取扱いや、登記事項証明情報については「照会番号」が記載された登記情報提供サービスから印刷されたインターネット登記情報も認めるとする市区町村もあります)が微妙に異なっていたりします。また、郵送申請は受け付けないとか大量申請時の際は事前に電話予約してください、と言った注意喚起を促す窓口もあるので、初めて申請しに行く市区町村では慎重に下調べする必要があるのです。
司法書士手帳の上記要領の末尾にも「具体的な手順については、市区町村役場にお問い合わせください。」と記載されていますが、相当窓口と揉めた過去があるのでしょう。
さて、ここで我らが港区のホームページも見てみましょう。下の画像は『住宅用家屋証明書発行にあたっての要件及び必要書類に関する情報』のリンク先なのですが、発行要件の(6)①って間違ってませんかね…?
物件の「取得日」とは?
ちなみに取得日の取り扱いで悩ましいのが、分譲マンションの所有権移転における取得日の問題です。
困った事に「取得の日は、原則として売買契約書等の書類により確認し、取得日の先付発行はできません。」等とのたまう行政窓口があるのです。
だったら「決済後、登記申請までに住宅用家屋証明を取得すれば?」と思う人もいるかもですが、時間的にはかなりタイトになります(要するに、困るという事)。
一般の方にはピンとこない話かも知れませんが、取得日を先日付にできない結果として、所有権移転の登記原因日付の前に取得日が入るという矛盾が生じ、司法書士的には非常に気持ち悪さを感じる事となるのです。(不動産売買の契約書では、通常所有権の移転時期を代金支払日(決済日)とする特約があるので、契約日=所有権移転の日とはなりません。)
取得日を決済予定日として先日付で記入できるすると、万が一決済が流れた時に虚偽の証明となるので責任を負いたくないという事なのでしょうか?便宜、取得日を空欄にして、登記申請時に司法書士に記載させるという運用もコンプライアンス上問題があるので、分からなくもないですが…
この証明書申請の手続きの矛盾は、(購入物件の居住前なのに)添付書類で原則、買主の「新住所の」住民票を求める点です。もちろん新住所で登記できる場合は特に問題はありませんが、現住所で登記を受けるケースでは、決済後でなければ買主は物件の引き渡し(つまり鍵)を受ける事ができないので、その時点で住民票を移せない為に必然的に現住所の住民票を提出する事になるのです。
その場合は申請書の添付書類として(未入居で申請する)申立書及び現在の家屋の処分方法(賃貸借契約書や社宅証明書等)のわかる書類の提出も必要になります。なお、入居予定日は申立日(申請日)から原則として2週間程度の期間に限られます。2週間を越える場合は、やむをえない事情を疎明する書類を提出が必要です。(ただし申立日から1年以内が限度。)
申立書では「入居が登記の後になる理由」の記載を求められますが、代金の支払いが完了しないと入居することができず、資金調達の都合上、抵当権の設定を急ぐことは当たり前な訳で、何のための決済やねん!と思わず突っ込みたくなります。それをわざわざ記載させるのがお役所的だなぁと思う訳です。(お役所の原則と登記の実務(というか不動産取引の商慣習)がねじれているという事)。まぁ、法務局の内部通達で「問題ない」(住宅用家屋証明書に記載されている取得日と登記原因日付が異なっていても補正の対象にならない)と見解が出ている様なので良いのですが、モヤモヤ感は残ります。
まとめ
後半はほぼ愚痴の様な感じになりましたが、ご自身が購入した物件の裏で司法書士があーだこーだと考えながら、こう言った申請手続きをしているんだなぁと感じてもらえれば、この題材を書いた甲斐があるというものです。
ちなみに、住宅用家屋証明書は各市区町村の役所のHPに雛形があるので買主が申請できなくもないですが、共有名義(で共有者の一方が居住しない場合)とか、購入資金や店舗等併用住宅などの考え方、あと床面積の50平米は「登記面積(内法)」で判断するので、司法書士にお願いするのが間違いありません。万が一決済日に間に合わないとかなり高い登録免許税を払う羽目になりますので。
また、登記も売主が存在しないか、売主が承諾すれば買主自らが登記申請する事ができますが、基本的にはお勧めしません。確かに申請自体はインターネットを叩けば素人でもわかりやすく解説されているものもありますが、この様な登録免許税を軽減する仕組みには触れていなかったり、仮に記載されていても登記時に軽減証明書(住宅用家屋証明)を原本還付しないで申請してしまったりするミスが目に浮かびます。(住宅用家屋証明は再発行できません。確定申告(住宅ローン控除)の際もこの証明書を添付します。)
不動産売買に係る登記は司法書士にとって基本中の基本と言えますが、結構細かい所があり、その為に司法書士の存在意義があるんです(自画自賛)。