不動産 司法書士

借地権マンションはありか

投稿日:2020年11月24日 更新日:

SUUMOや不動産ポータルサイトを眺めていると、目を止める割安な物件。心が躍る。行くか?と、物件概要を見ると、分譲後の権利形態、定期借地権…ですよね~、とPCをそっと閉じる。

マンション(法律用語でいうと、「区分建物」)は建物部分がその名の通り、区分されている。マンションの建物部分は専有部分と共用部分があり、マンションを購入するということは、いわゆる専有部分(住戸)と底地の所有権の一部を取得するということです。一部というのは、別に専有部分の直下の半径3mの部分だ!ということではなく、共有という概念上の権利です。ですから、敷地の一部を好きに囲って独占できるわけではありません。

では、そのマンションの底地に有する共有権利(法律的に言えば敷地利用権)はどのように決められるのかというと、建物全体の専有部分に対する専有部分の床面積割合での持ち分となります。例えば、建物全体で10,000㎡の床面積であなたの専有部分が70㎡であれば、登記簿上では専有部分の表題部の敷地権の表示として敷地権の割合「10000分の70」と記載されることになります。そして、権利の表記(登記)は専有部分にされることになり、底地部分に敷地権化の登記をしてからはその土地に対して共有持分の権利変動を記載することはなくなります。つまり、権利変動を知りたければ建物部分の登記を集約しているので、そちらを見てくださいということなのです。なぜそのようにするかといえば、権利移転の記録を専有部分にまとめなければ、専有部分の売買を行うごとに土地にもそれぞれ所有権移転、抵当権の抹消、設定といった登記を行わなければならず、登記簿がごちゃごちゃになってしまう(結果、ミスる)からです。例外的にではありますが、古いマンションでは稀に敷地権化されていない区分建物(長屋形式、今風に言うとテラスハウス)も見られます。戸数が多いマンションでは地獄のような厚さの登記情報が出てきます。

マンションの権利形態とその処分について

マンションにおいては「建物の区分所有等に関する法律(いわゆる区分所有法)」により、建物を売却する際は必ずその敷地も一体として売却しなければならないと定められており、建物部分だけを売却したり、その他の処分(担保権の設定)することは原則認められません(分離処分の禁止:区分所有法第22条)。敷地権たる旨の登記が行われた土地の登記記録には、原則として敷地権のみを目的とする担保権の設定はできないのです。また、マンションの底地(法定敷地)以外の土地に(つまり、マンションから離れた場所に)マンションの住人用の駐車場などを有する場合もあり、その様な敷地に関しては、規約により敷地化されることから「規約敷地」と呼ばれますが、その処分に関しても同様に分離処分が禁じられます。

これはマンションの「処分」面の話ですので、権利や価値そのものが混ざるという事ではありません。毎年の固定資産税の支払いや購入時の消費税(建物部分にのみ課税されます)といった税金の算定などに関しては、マンションの価値は専有部分と敷地に分けられます。

さて、いきなりオジが大好きな登記の話に脱線しましたが、今回のテーマはその底地の権利が所有権以外の権利の場合についてです。底地の権利を所有権以外で手に入れた場合、専有部分は買主の所有となりますが、敷地に関しては所有するのではなく、地主から地上権もしくは賃借権の設定を受けてそれを専有部分の区分所有者間で(準)共有するということです。それでは所有権と借地権では何が違うのでしょうか。

借地権マンションはなぜ生まれる?

次に、供給する側から借地権マンションが登場する理由を考えましょう。物件情報をウォッチしている方であれば、借地権マンションが出る場所や傾向に一定の傾向がある事に気づくのではないかと思います。実際、寺社が多いエリアで借地権マンションがよく出ます。なぜかと言えば、寺社を経営する宗教法人と借地権は非常に相性が良いとされているからです。その理由は大きく二つあり、一つ目は心情面です。つまり、寺社が自身で所有する敷地とはいえ、歴史ある土地を売ることについて氏子が反発するケースがあることから、その不満や不安を和らげるために借地とすることで、彼らの反発を防ぐことができるという点。二つ目はお金の問題です。寺土地に借地権を設定した際に「権利金」を得るわけですが、当然権利金収入は課税対象となります。また権利金のみならず、年の借地料についても都心の土地であれば大きな額となり、税金の額も相当な額となりますが、寺社の運営母体である宗教法人は非課税である事から、その負担を無くすことができるというわけです。寺社の運営は人件費や維持費などでコストがかかり、寄付やお布施だけでは建物の大規模修繕まではまかないきれないというところが多いため、唯一の資産ともいえる境内の敷地の一部に借地権を設定して、その補修費用に充てるというケースが多いのです。最近はマンション用地の確保ができず、デベロッパーとしても頭の痛い問題でした。また、再開発プロジェクトも周辺の多数の地権者をまとめるのに非常に時間とお金がかかるので、上記に挙げた様に、宗教法人に対して寺社の土地に借地権を設定する提案を行うというわけです。

上記は、宗教法人などの非課税対象者固有の借地権設定のメリットですが、個人や、一般企業であっても、更地で広大な土地を所有していると、維持費だけでなく、毎年多額の固定資産税がかかる事から、土地を貸すことで安定した地代収入を得るとともに、デベロッパーがその土地上に不動産を建設することによる固定資産税の軽減も図ることができるので、一定のニーズがあるといえます。

売り手側の供給理論は分かりましたが、買い手のメリットはどうなのでしょうか?借地権のデメリットを主張する人は多く、みなオジも物件を選定時には難点が目についてしまい二の足を踏んでしまうタイプだったのですが、今後における自己の購入のモチベーションに変えようとの想いもあり、今回は借地権物件のメリットにスポットを当てて、メリットを探し出したいと思います。

デメリットメリットを語る前に、まず借地権についての説明をしましょう。借地権とは所有権は地主である貸主に残し、その土地を利用する権利で、どのような権利で借りるかによって物件である「地上権」と債権である「賃借権」に分かれます。基本的に物件である地上権の方が権利として強いのですが、不動産に関しては共に登記ができ、法律で借地上の建物の保護が強化されていることから、一概には両者の違いを語ることはできません。例えば存続期間に関して民法上は両者で違いはあるものの、特別法である借地借家法で「30年以上(上限なし)」と修正されるのでそれほど気にする必要はありません。(ちなみに賃借権の存続期間については従来の20年以下から50年以下に改正されました。)また、先ほど借地借家法で修正を受けるといいましたが、家を建てる目的以外(例えば、借地上に駐車場や太陽光パネルを設置する場合)で土地を借りる場合などは、改正による影響が出るでしょう。

もう一つ地上権と賃借権の大きな違いとしては、賃借権の借地権マンションを購入した後で誰かに売却したい場合に、地主の承諾を得る必要がありますが、地上権では承諾は不要です。なお、譲渡の際は承諾料の発生が契約に定められている事が通常で、これにより売主は売買契約の際に地主に対して支払う必要があります。借地権マンションを購入する際は、将来売却することも考慮して、あらかじめ承諾料の額を確認しておくと良いでしょう。ただし、承諾の要否に関しては賃借権設定の契約時に地主の承諾を不要とする特約が可能であり、登記事項(不動産登記法第81条「譲渡転貸特約」)にもなります。このため、一概に賃借権が権利として劣るとは言えません。ちなみに、借地権マンションの専有部分(建物)を賃貸に出す場合は、分離処分には当たらず、地主の承諾はそもそも問題になりません。

借地権の種類は3つ

借地権には3つの種類があります。総じて所有権に比べて安いというメリットがありますが、安いということは当然デメリットもあります。しかし、デメリットは人によっては気になるものではなかったり、条件によっては所有権とさほど変わらないものもありますので、所有権マンションに固執しなければ、意外と自分とマッチした物件が候補に挙がるかもしれません。最近は、物件価格が高止まりして、選択肢が狭まっているので、視野を広げて選択肢を増やしたいものですね。

所有権

現在の新築マンション市場で多く供給されるのが所有権(が敷地権化された)マンションとなります。借地権が敷地となるのではなく、その名の通り土地の持ち分を所有(正確には区分所有者間で共有)するものです。敷地の所有権も建物部分と一緒に買主に移転しますが、先ほど挙げたとおり、分離処分の原則に従わなくてはいけないので、敷地だけを売ることはできません。敷地は所有しているので借地料は掛かりませんが、建物と共に敷地にも固定資産税が毎年掛かることになります。

借地権

借地権には3つの権利があり、共通点としては地主に対価を支払ってその敷地を借りることができます。その対価は、借地権設定契約の際の権利金(定期借地権設定の際は「保証金」(将来的に地主から返還される)という名目で交付される場合も)毎年の地代と借地契約更新の際の更新料と建替えの際に支払う承諾料があります。下記にも記載の通り、借地権はその種類によっては借地権によっては所有権とそれ程使い勝手の変わらない権利です。

旧法借地権

現行の借地借家法ができる前に成立した借地法で定められていた借地権のことで、借地料の不払いなどがない限り借地契約を更新し続けることで、半永久的に借りることが可能です。存続期間はその借地上に建てられる建築物の種類によって20年(木造)、30年(鉄筋造等)以上に設定できます(期間を定めない場合の法定存続期間もそれぞれ60年(木造)30年(鉄筋造等)と定められています)。地主は、正当事由がなければ更新拒絶することができず、正当事由についても非常に認められにくくなっているのも特徴です。借主の権利が強いイメージのある旧法借地権ですが、気を付けなければならない点として「朽廃」による権利消滅問題があります。建物の朽廃とは以下の様に判例等で示されています。倒壊している必要はありませんが、少なくともその物の社会的経済的効用は失われている状態(雨風がしのげない状態)をいいます。

建物の朽廃(きゅうはい)とは、時間が経過することによって、老朽化した建物がその形を維持できなくなり、通常通り使用できなくなった状態のことを言います。
その建物が朽廃しているのかどうかは、非常に判断が難しいところではありますが、これまでの判例では、以下のような建物が該当しています。

・朽廃とは、建物が社会通念上建物としての社会的経済的効用を失う程度に腐朽損壊し、通常の修繕程度ではその寿命を延ばすことができず、社会的効用を維持し得ない場合をいう。(東京地判 H21.6.15)

・構造部分が朽ち、いつ崩れるかわからない危険な状態の建物をさし、大規模改修をしなければ通常通り使用できないと判断される建物である。(大規模改修の程度としては、建て替えをするのと同じくらいの工程、または費用が必要になる工事)

引用元:底地と借地.com

借地上の建物の朽廃には注意

朽廃については、旧法借地権時代の建物は老朽化が進んでいることが多く、借家の朽廃問題(を原因とする立退き、修補請求)ほどではないにしても議論に上がりやすい問題かと思います。借地権の存続期間を定めなかった場合は建物の朽廃を原因として借地権が消滅する事となります。(新法下では、建物の朽廃・滅失ともに、残存期間中の権利は保護されます。)朽廃規定は、借地契約期間中であるにも関わらず、借地権を消滅させてしまうものであり、借地権者にとっては非常に酷な規定といえますが、その分、朽廃の認定は限定的であると解釈されています。なお、存続期間の定めのある借地権では、その設定契約中に上物の建物が「朽廃」した場合、それを理由に地主側は更新拒絶は出来ません。なぜなら、存続期間を定めているという事は借主がその期間内で再築・改築すると考えるのが自然であり、地主側の想定の範囲といえるからです。

この様に一部の例外があるものの、旧法借地権は借地権の中で一番借主の権利が保護される権利であると言われています。また、更新を繰り返しても旧法から新法借地権に移行することはないので、新築物件であってもそのマンションが建替え事業による場合では旧法借地権が敷地権となることはあります。

普通借地権

上記の旧法下での借主(借地権者)は非常に保護されてきたため、そのバランスをとる趣旨で形成されました。現在の普通借地権は平成4年8月に制定された「借地借家法」で定められた権利の一類型で、借地権の存続期間は建物の種類に関係なく一律30年(合意により30年以上とする契約も可能で、更に「永久」とすることも可能)です。地主は正当事由がなければ更新拒絶できないのは旧法と同じですが、最初の更新では20年、2回目以降の更新では10年と期間が徐々に短くなるのが特徴です(借地借家法第4条)。なお、改正では建物滅失(台風や、火事などを原因とする建物その物の消失)の規定が定められ、1回目の更新以降で、再築の際に地主の承諾を得ていない場合は、地主側が借地契約を解除できるとされました。これにより双方合意を要せず、地主からの解約申入れをした時点で借地権は消滅することになりました。(なお、借地権の存続期間満了前に建物が存しない場合は、正当事由の有無によらず、借地権を期間満了で消滅することができます。)

更新拒絶は正当事由とお金で解決

更新の拒絶については、借地借家法では「正当事由」が明確に定義され立ち退き料を支払う事により更新の拒絶ができるようになり、いわば地主都合による契約解除が認められました(借地借家法第6条)。実務上では、仮に賃借人側にも相応の土地建物利用の必要性が認められた場合であっても、賃貸人側にも一定程度の土地建物利用の必要性が認められ、かつ、賃貸人が立退料を支払う意思を示せば、立退料の支払いを条件とする引換給付判決で賃貸物件での明渡しが認められることになります。

定期借地権

借地契約に更新がなく、期間満了とともに土地を地主に返還しなければならない借地権のことです。定期借地には大きく4つに分類されますが、ここでは一般定期借地権建物譲渡特約付借地権について説明しましょう。旧法下では借主の権利が強すぎた(一回かしたら返ってこない)ので、借地権の設定に後ろ向きな地主が多くいました。そのため、返還されることを原則とした「定期借地」という概念が、借地借家法で誕生しました。

一般定期借地権

一般定期借地権では存続期間を50年以上の期間で設定できます。また、契約は期間満了時に更新の余地なく終了し、借主は自己負担(多くは「解体積立金」を毎月支払い準備しておきます)で建物を解体して土地を更地にしてから、土地の返還をする必要があるので、一般の借地権では認められる建物買取請求権もなく地主の負担は非常に軽いと言えます。以前のトピックでも記載しましたが、定借マンションとしてある意味伝説となったのは品川駅至近に建てられたタワーマンションです。借地期間72年(内2年は解体のための期間)の定期借地権物件ですが、デベロッパー側も価格評価に迷ったのか、相当なバーゲンセール(坪単価120万円程度と相場の半額以下)で売り出されたのが記憶に残ります。これは地主が東京都だったからという事もあり、販売価格も抑えて、転売・賃貸も禁止としたことも無関係ではありません。

建物譲渡特約付借地権

建物譲渡特約付借地権(借地借家法第24条)は、借地権の存続期間を30年以上に設定し、その期間満了時に、あらかじめ決めた金額で地主(借地権設定者)が買い取るという契約になります。

借地権マンションのメリット

価格

旧法借地権、普通借地権の場合は上述の通り、半永久的に更新ができることから所有権と同じ感覚で住むことができ、価格も通常よりもお手頃でしょう。さらに定期借地権の場合は借地の期間に上限があり、期間満了時に更地に戻して、地主に返還しなければいけないのですが、その分所有権物件より割安になります(定借期間にもよるが、所有権物件の7~8割が多い)。最近では、70年、80年の長期の借地期間を有する物件もあります。敷地が所有権であるか否かに関わらず、上物である建物の寿命はいづれ来るわけで、80年間建物が存在すれば、それは建物としての役割を果たしたと言え、取り壊して敷地を返還することにそれ程抵抗はないと思われます。むしろ定借期間満了日から逆算してメンテナンスを行えばよい訳で、定借期間の末期における維持費は通常のマンションよりコストコントロールが効くのではないかと思います。

また、敷地の固定資産税がかからない代わりに地主に対する地代と契約更新時の更新料が発生しますが、その価格によっては価格面での不利益というのも少ないのではないでしょうか。タワーマンションなどの大規模物件であれば、戸当たりの地代が分散されるので負担が少ないというメリットもあります。

眺望

借地権を提供する地主には、寺社が多く、エリア的にも閑静な場所が多い。その場合は近傍に高層の建物が少なく借景にも恵まれていることも多いのではないでしょうか。

相続対策(節税面)

元々不動産で所有する場合は、現金で所有する場合よりも節税効果が高いですが、借地権物件はその評価額を更に抑えられます。

仕様

盲点となりがちですが、借地権という敬遠されやすい権利であることから、売主側はそれを補うべく、より多くのセールスポイントを出してくることが多いと感じます。同価格帯のマンションより一つ二つグレードを上げて専有部の仕様や設備を豪華にし、共用部分にも贅を凝らしたエントランスやゲストルームやパーティルームなどを作り、買主側にお買い得感を更に訴求します。実際に、借地権物件であっても高級マンションとして名高い物件はあります。

借地権マンションの行く末は、今後の評価次第?

借地権マンションの歴史とメリット等を挙げましたが、借地権に対する考え方に変化はあったでしょうか?そもそも、財産の価値というのは主観的な要素も大きい(購入者の気落ち次第)ですし、税制改正(借地権の優遇措置)や時代の変遷を経て借地権の評価も変わるでしょう。また、みなオジの様に買い替えを前提で不動産を購入するタイプの人には、総体的に価格がこなれている借地権物件は購入しやすいのではないかと思います。借地権だからといって、住み心地に変わりはありませんし、国によっては土地は国家のものであり、個人に所有権はないという発想もあるので、その様な国の人にとっては、借地にネガティブなイメージは少ないでしょう。一応下記に借地権のデメリットも下記に羅列しておきますが、上記に挙げたメリットによって打ち消されると考えることができれば、今日からあなたは借地権物件も選択の候補に加えて、物件を探すことができるでしょう。

借地権物件のデメリット
・高い買い物をしたにもかかわらず借り物(借地)というモヤモヤ感
・購入時にローンが下りにくい(借地に対する評価が低い、不安定)
・借地権物件はネット系銀行で融資対象にならない(審査のノウハウがないが、いずれネット系銀行でも融資可能になると思われる)
・売却時にローンが下りにくいので売却先に苦労する、高値売却が難しい
・途中で地代が上昇する可能性(ランニングコストの負担が増える)
・期間満了前の建物の修補で揉めやすい(特に定期借地権)

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。