法律

公益通報者保護法の改正

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引用元:消費者庁HP 公益通報者保護法と制度の概要より

令和2年6月改正公益通報者保護法が成立し今年の6月に施行となりましたので、今回は「公益通報者保護法」について解説していきたいと思います。

改正の端緒としては、税法違反や入国管理法違反、補助金適正化法違反、会社内部におけるハラスメント案件など、立法当時は予定していなかった法令に関する不正行為が増加したことを受け、これらの通報者についても保護する必要性が高まった事から改正が議論されたという事です。

改正により従前は刑事罰に該当する事実(つまり犯罪行為)しか保護の対象となっていませんでしたが、今後は行政罰である「過料の理由となる事実(行政処分)」が通報対象事実として追加されました。

「横領や贈収賄など、犯罪に該当する事さえしなければ大丈夫だろう。」と高をくくっていると、内部から告発を受ける事態になるという事を肝に銘じて自社内の内部統制を実施する必要があるでしょう。

法の目的

第一条 この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。

公益通報者とは

通報時点で雇用契約が終了している退職者や、会社と委任関係にある役員については、これまで本法で定める「労働者」に当たらず、保護の対象となっていませんでした。この点は、後述の通り、本改正により拡大されました。

公益通報の内容とは

「通報対象事実」とは、公益通報の対象となる事実を指します。個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(公通法第2条第3項)とされていますので、なんでもかんでも通報すればこの法律で保護される訳ではありません。

自分の所属する会社がどの法令に関連しているか確認をしましょう。

1号 刑法
2号 食品衛生法
3号 金融商品取引法
4号 日本農林規格等に関する法律
5号 大気汚染防止法
6号 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
7号 個人情報の保護に関する法律
8号 その他、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として政令で定めるもの
公益通報者保護法別表(第二条関係)

同条第3項8号に記載されている「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」を見ると、445個の法令(司法書士法、医師法、貸金業法などの業法をはじめ、不正競争防止法、食品表示法など多岐に渡る法令)が対象となっています。日本の法律の数は約1900個あり、その内の何割は行政法等の公法なので、事業者に関連する法律はほぼ網羅されているのではないでしょうか。

通報事実の判断基準

ただし、通報する側の立場に立つと、自分が告発しようとしている内容が、保護の対象になるのか分かりにくく、その点は問題であると考えます。

具体的には「事業と無関係な従業員の私生活上の法令違反行為」、例えば「自分の勤務先の社長が女性社員と社内不倫をしている」というのは通報対象事実ではないですが、「不倫関係が破綻した後も、その女性社員に対して権力を盾に性行為を強要している」という内容であれば、強要、や強制わいせつ(刑法)に該当するものとして通報者は保護されるという事になります。

ただし、ややこしい点として、一般的なセクハラに留まる限りは、男女雇用機会均等法第11条に抵触したとしても、犯罪行為若しくは過料対象行為又は最終的に刑罰若しくは過料につながる法令違反行為とされていないことから、これらの法律違反についての通報は、公益通報には該当しません。(消費者庁:通報対象事実(通報の内容)に関するQ&Aより抜粋)

この様に、判断の基準が一般人には難しい点がありますが、保護対象に該当しない場合であっても、労働契約法等の他の法令によって労働者が保護される可能性はある為、他の法令に違反していないかどうかの確認が必要だと思われます。下記はその一例です。

 パワーハラスメントについては相談窓口への件数が増加している事から、その対策として2019年に労働施策総合推進法(俗称:パワハラ防止法)が施行され、2022年4月には中小企業にも適用範囲が拡大されます。
 同法では、労働者からの相談に対して必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けられる(同法30条の2)ので、事業者側は労働局から是正指導(罰則ではない)
を受けないように相談窓口の設置が求められたことから労働者の保護が手厚くなりました。
パワハラ防止法(ちなみにこの法律は「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」で列挙される法令には含まれていません)

通報先はどこ?

通報先は①勤務先の特定部署(会社規則により顧問弁護士、労働組合などが定められているケースが多い)や②監督省庁等の行政機関の窓口③報道機関、消費者団体です。

改正のポイント

「公益通報対応業務従事者の設置」と「内部通報体制の整備等」

令和2年改正では、事業者の法令違反を自発的かつ早期の是正を期待し、新たに、常時使用する労働者の数が300人を超える全ての事業者に対し、「公益通報対応業務従事者の設置」と「内部通報体制の整備等」を課すここととしました(法第11条)。(常時使用する労働者の数が300人以下の事業者は努力義務)

「公益通報対応業務従事者」とは通報受付窓口において対応業務を行う者です。そして、従事者に指定された者には刑事罰付きの守秘義務を課すこととし、安心して通報ができる環境を整えています。「内部通報体制の整備等」についても対応を義務づけられていますが、(これは公益通報制度自体の問題点とも言えますが)通報の多くが社内の不平不満(例:「私の昇進が遅いのは、上司から差別されているからだ」)などの保護に値しない報告や通報対象事実かどうか判断に迷う報告である事から、そこに無駄な人的資源を割く不効率と独立性の問題を考えると、社外の専門家(主に弁護士)に委託するのが無難でしょう。通報内容を漏洩した公益通報対応業務従事者には、罰則が科せられる事(同法第12、20条)から、彼らの精神的圧迫をできるだけ取り除くためにも、外部機関の協力は必要と思われます。

それ以外に会社が対応すべき体制整備としては、内部通報制度認証(WCMS認証)の取得や従業員に対する周知徹底(教育実施)、グローバル企業の場合は窓口や関連する社内規定について英語等の対応を行うといった通報のハードルを下げる様な取組みも必要になってくるでしょう。

内部通報制度認証は事業者自ら審査して登録する自己適合宣言登録制度と中立公正な第三者機関が事業者の内部通報制度を審査、認証する第三者認証制度があります。
ちなみに事業者が自己適合宣言登録制度の登録を受けるための審査項目は合計38項目からなり、その内25の必須項目と、13の任意項目のうち6項目を合計した31項目に適合していると判断される場合には、審査基準を満たしていると判断されます(例外あり)。
令和4年6月に施行の改正公益通報者保護法において、常時使用する労働者数が300人を超える事業者に内部公益通報対応体制整備義務が新たに課されたこと等を踏まえ、自己適合宣言登録制は見直されており、改正法の施行状況や事業者の要望等も踏まえつつ新たな制度を検討することとし、自己適合宣言登録制度については、当面休止となっています。
内部通報制度認証について

公益通報者の範囲の拡大

また、より多くの通報者を保護するため、公益通報者の範囲については、従前の「労働者」に加え、新たに「役員」「退職後1年以内の退職者」も含めることとしました。

行政機関・報道機関に対する通報をより行いやすく

行政機関への公益通報(2号通報)を行いやすくする観点から、行政機関への通報が公益通報として保護される場合として、従前の「信ずるに足りる相当の理由がある場合」に加え、「氏名等を記載した書面を提出する場合」を規定しました。また、報道機関に対する公益通報(3号通報)の保護要件も緩和されました。

さいごに

認証制度の説明あたりから、若干お金や天下り臭が漂いましたが、基本的に労働者の保護や不正を防ぎ、日本経済を健全にする制度となることには間違いないので、企業に勤めるサラリーマン、役所勤めの方も含めて一読してみるのをおススメします。

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