若干話題が古いですが、昨日日本司法書士連合会より「司法書士法改正記念誌」なるものが届きましたので、司法書士法の改正について書いていきたいと思います。開けてビックリ、この記念誌は全200頁の超大作で、いかに司法書士がこの法改正に力を注いできたのかが、とても伝わる1冊となっています。素人目には大した改正に映らないかもしれませんが、現役の司法書士(改定に関わった訳ではありませんが)として、改正の概要を説明していきたいと思います。
目次
司法書士法とは?
司法書士法とは、司法書士に関する制度全般について定めたものであり、例えば司法書士の職責、職域、懲戒事由などを定めた法律です。今回の改正は、司法書士に簡易裁判所における訴訟代理権が与えられた平成14年改正から実に17年ぶりの大型改正です。我々司法書士にとってはまさに規範となる法律といえます。1919年に定められた司法代書人法(大正8年4月10日法律第48号)が現在の司法書士法の起源となるものですが、職業としての代書人は、そこから更に遡り1872年(明治5年)に、わが国最初の裁判所構成法である「太政官無号達」でその存在を記されています。江戸時代は初等教育がまだ庶民に行きわたっていなかったことから、「代書」という職業が存在し得たといえます。
今回の改定のポイント
今回の改定のポイントは3つ。このうち1.については、司法書士としての沽券に関わる重要な改正であり、自身の存在意義を問われかねない重要な局面で勝ち取った内容なのです。法律に詳しくない人には、何で?と思われるかもしれませんが、司法書士会、連合会の重鎮に「悲願」と言わしめるほどの重要な前進といえました。下記に詳しく説明します。
- 「国民の権利保全の寄与者」から「国民の権利の擁護者たる法律事務の専門家」へ
- 懲戒手続の適正化(懲戒権者・除斥期間の設定、異議申立権の見直し等)
- 司法書士法人設立についての規制の緩和(一人法人が設立可能に)
「国民の権利保全の寄与者」から「国民の権利の擁護者たる法律事務の専門家」へ
この改正は、まず司法書士法第1条を見比べるところから始めたいと思います。
―――――――――――――旧司法書士法―――――――――――――――――
第一条(目的) この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、登記、供託及び訴訟等に関する手続の円滑な実施に資し、もつて国民の権利の保全に寄与することを目的とする。
―――――――――――――改正司法書士法――――――――――――――――
第一条(司法書士の使命) 司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。
新旧の違いが判りますかね?ヒントは新法第一条の赤字部分です。
司法書士は「法律事務の専門家」であり、「権利を擁護」することが「使命」とされたという事です。「…これって、司法書士として当たり前のことではないのですか?」という声が聞こえてきそうですが、司法書士は(実態としては、法律家として認識されていますが)これまで業際の問題で明確に法律の専門家であったとはいえませんでした。しかし、今回の改定で「司法書士の使命」の中には、「権利(すなわち人権)擁護」が含まれたことにより、憲法との関係においても「基本的人権」擁護の担い手であることが明確にされた訳です。国民の最重要権利である「基本的人権」を擁護する使命を与えられたわけですから、弁護士と並ぶ法律家として法的支援を期待(もちろん、そこには重い責任も伴いますが)されたという事になります。たかが、一つの条文の変更ですが、この「使命規定」は司法書士による独善的な要望から手にしたものではなく、国民の立場・目線から司法書士が国民の権利保障になくてはならない存在と認識されたことで与えられた条文であるという事に大きな意味を感じます。ここでみなオジが言いたいのは、このことにあぐらをかく事無く、国民の期待に応えるために、より一層研鑽を積んで業務に励まなければならない(改正法的に言うならば、「自由かつ公正な社会」の実現のため、依頼者たる国民に向き合い、依頼者の正当な利益の為であれば行政・立法・司法にも積極的に働きかけていく)という事です。(久々にマジメか!)
ちなみに、参考として弁護士法も記載しておきます。これと比較すると両者に求められていることがかなり近くなったという事が分かるでしょう。
弁護士法 第一条(弁護士の使命) 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする |
懲戒手続の適正化、司法書士法人設立の条件緩和
先の使命規定の改正が大きすぎて陰に隠れがちになりますが、2.の懲戒手続の適正化についても、司法書士の独立性の担保(法的に言うならば「私的自治の確立」)や業務の安定に資する改正です。任命権者が法務大臣であったにもかかわらず、懲戒権者が(地方)法務局の長であったといういびつな任免体制が解消され、それに伴う形式的理由(平たく言えばつまらない)の懲戒処分が減少することになりそうです。最後の3.についても、従来社員2人以上必要であった司法書士法人の設立条件を緩和(一人の司法書士がいれば、設立を許可する)する事で、一般的な法人化によるメリット(税制面・社会保障面での優遇)を享受することができる様になり、司法書士業の経営基盤強化に寄与する事が期待されますね。
課題その他
この様に、司法書士にとって非常に重要な改正が行われましたが、今後の課題になる点も残されている様です。例えば、改正記念誌の寄稿されている佐藤 純通先生によると名称の変更(書士では代書人のイメージが抜けない)や英語の公式名称(the Judicial Scrivener)は誤訳であり、グローバル化に対応すべく正しい英語表記を検討すべきなどとの意見が出されていますね。ちなみに、「scrivener」という単語は古めかしい英語で「代書人」という意味合いらしく、日本の司法書士の業務はイメージできないようですね。おそらく、佐藤先生は「solicitor(事務弁護人)などに直すべきとおっしゃっているのでしょうね。
ここでみなオジも、新たな名称にひと肌脱ごうと思います。こんな名称はどうでしょうか?
・法務士 ・司法士 ・准弁護士 ・登記弁護士 ・リーガルマスター ・リーガルエグゼクティブ ・リーガルエキスパート ・リーガr(…以下略) |
…英語の語彙力の無さよ~。全くセンスないですね。横文字系名称は早いもん勝ちで名乗ってしまってもいいかもしれませんが、民間資格の様な怪しさを醸し出しますね。一部、弁護士先生から怒られそうな名称案もありますね。
さいごに
いかがだったでしょうか?たかが1条の為に、10年以上関係各所に働きかけて、それでもすべての要望を通せないというシビアな世界が垣間見えたのではないでしょうか。また、現在司法書士資格を取得しようと勉学に励んでいる方も、司法書士になるというのはこの様な歴史を繋ぐことなのだという覚悟を持って、学習をすると、少し気合というか、背筋が伸びて集中力が増すのではないかと思います。