司法書士 法律

戸籍と司法書士

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戸籍は登記(特に相続関連登記)を主たる業務とする司法書士にとって、非常に関係の深い書面です。

戸籍とは国民が出生してから死亡するまでの身分関係(出生、婚姻、死亡、養子縁組など)を記録し、公に証明するための書面です。以前は手書きで縦書き様式の書面(達筆すぎて読めない問題多発!)でしたが、現在ではコンピュータ化されてプリントアウトされて出力されます。平成6年以降進められているコンピューター化が進んだことと、相続登記実務上の要請(まあ、無い場合は役所から「廃棄証明」をもらえば良いのですが)で平成22年に除籍簿と改製原戸籍の保管期限が改正され、これらの保管期限が80年から150年(全員が除籍になった年度から数えて)まで延長されました。

除籍とは転籍などの届出により戸籍に記載されている全員が除かれた戸籍。婚姻や死亡などの届出により、個人がその戸籍から除かれることも除籍となる。
改製原戸籍とは、戸籍の記載方法の改正などで新しくつくり直した元の戸籍をいい、戸籍法が明治4年に公布されて以来、昭和22年の改正でできた元の戸籍を昭和改製原戸籍といい、保存期間は戸籍を改製した年度の翌年から150年です。戸籍のコンピューター化によりできた元の戸籍を平成改製原戸籍といい、保存期間は戸籍を改製した日から150年です。

戸籍の1単位は一組の夫婦と姓を同じくする未婚の子で形成され、その全員が記載された記録が「戸籍全部事項証明」、一部の記載の場合は「戸籍個人事項証明」と呼ばれています。現在夫婦別姓が議論されていますが、現状は結婚後も姓を継続する夫が戸籍の筆頭者となります。

住民票と混同している人もいますが、住民票は住民の居住関係を公に証明するもので現在居住している住所やどこからいつ転居してきたかという情報が記載されています。ちなみに、本籍及び筆頭者氏名などはプライバシー保護の観点で記載を選択することが可能です。

職務上請求権とは

職務上請求というのは弁護士・司法書士をはじめとする「特定事務受任者」がその名の通り、職務上の理由で戸籍を取得することができるものですが、受任者が不正な目的または興味本位で個人の戸籍を取得するという事件が横行した為に「職務上請求書」というそれぞれの士業が所属する組織(司法書士なら司法書士会)の統一様式を購入して記載・提出しなければならないとされ、その取扱いは厳重に管理されています。

ちなみに、購入者以外に使用させることは禁止で(戸籍謄本・住民票の写し等の職務上等請求書に関する規程基準 第10条)、廃業する時も返還義務があります(同12条第4項)。

職務上等請求書は1号請求書は1冊100枚つづり、2号請求書は1冊50枚つづりで販売され、東京会では交付価額は1冊金1,100円とされています(同2条)。大して高いものでは無いですが、1号2号と請求書が分かれているのがやや面倒だなと思ってしまいます。多少高くなっても統一書式を望みます!

しかし、平成14年には弁護士が調査会社に職務上請求用紙を不正譲渡したという事件もあったようで、個人の倫理観を超えた問題になっている様な気がします。

司法書士も人の事は笑えなくて、日司連のホームページには「戸籍謄本・住民票の写し等の職務上等請求書の紛失・失効状況について」という、うっかり屋さんの落とし物掲示板があります。

戸籍の請求権者

戸籍の取得は戸籍法第10条に記載されている通り、取得する戸籍に記載されている本人、その配偶者、直系親族となっているので、兄弟等の傍系親族は取得できないことから、同法第10条の2に規定される第三者請求(「相続登記申請の為に取得」等と使用目的を記載する必要がある)をしなければいけません。

戸籍法第十条
戸籍に記載されている者(括弧内略。)又はその配偶者直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。

職務上請求は第三者請求の延長線上にある請求方法(戸籍法第10条の2第3項)で、職務上請求の際は依頼者からの委任状の提出は不要となります。

1号様式と2号様式

どっちが1号だっけ?

「特定事務受任者」は上述の通り「職務上請求用紙」を所属する会から購入して、それを使用して各工交付窓口に請求するとされていますが、その様式は使用目的により1号、2号に分かれます。

1号様式を使用する業務は司法書士法3条に規定される、いわゆる登記申請業務等を中心とした業務で取得する必要がある書面となります。

2号様式は司法書士法施行規則第31条で規定される後見業務や財産管理業務で取得が必要となる書面の請求様式です。司法書士が2号様式を用いて請求を行う際は、その権限を証明する書面(例えば、「後見人の選任審判書」など)の添付を要します。

(司法書士法人の業務の範囲)
第三十一条 法第二十九条第一項第一号の法務省令で定める業務は、次の各号に掲げるものとする。 一 当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務 (以下省略)
司法書士法施行規則第31条は司法書士「法人」の業務範囲と題されていますが、
法人にできる事は当然司法書士個人でも業務可能と理解されています。
戸籍法第十条の二 
前条第一項に規定する者以外の者は、次の各号に掲げる場合に限り、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。
一 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合 権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由
二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合 戸籍謄本等を提出すべき国又は地方公共団体の機関及び当該機関への提出を必要とする理由
三 前二号に掲げる場合のほか、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合 戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする事由
② (略)
③ 第一項の規定にかかわらず、弁護士(弁護士法人を含む。次項において同じ。)、司法書士(司法書士法人を含む。次項において同じ。)、(中略)は、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。(中略)。
④ 第一項及び前項の規定にかかわらず、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士又は弁理士は、受任している事件について次に掲げる業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、その有する資格、当該事件の種類、その業務として代理し又は代理しようとする手続及び戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしてこれをしなければならない。
(中略)
 司法書士にあつては、司法書士法第三条第一項第三号及び第六号から第八号までに規定する代理業務(同項第七号及び第八号に規定する相談業務並びに司法書士法人については同項第六号に規定する代理業務を除く。)
(以下略)
戸籍の第三者請求に関する規定(戸籍法10条の2)

司法書士法第三条第一項第三号及び第六号から第八号までに規定する代理業務とは、登記・供託に関する審査請求(三号)、支払督促、即決和解、訴えの提起前における証拠保全、少額訴訟債権執行の手続等(六号、ただし相談段階では足りず、受任までする必要がある)、裁判外の和解の手続(七号)、筆界特定の手続(八号)です。

相続人調査や遺言書作成は上記③④どちらにも該当しないので、これらの調査の為に職務上請求はできないです。(ついでに言うと行政書士が良く行っている、家系図作成についても依頼者の直系の範囲でしか戸籍を取得できませんので、あまり意味のある家系図は作成できないかもしれません。)

さいごに

戸籍についてややマニアック内容も含めて記載しましたが、どうでしたか。戸籍は人のルーツを暴く事ができる重要な記録だけあって、非常にセンシティブな取り扱いとなっています。また、過去の不祥事を受けてその扱いにについては厳しく管理され、所属会からも定期的に職務上請求に関する注意喚起の通達が発出されており、違反者には厳罰を求める旨のパブリックコメントを発していて、組織全体で事件防止に取り組んでいるのが見て取れます。

一方で、厳重に管理する事で実務上非常に煩雑な手続きが多いのも事実です。例えば、登記事項請求書オンライン請求ができるので、戸籍でも同様にオンライン請求できる様にして欲しいといった要望があります。また、司法書士法人の職務上請求書はその法人の使用者たる司法書士が使用する事ができない等運用面でも問題点が叫ばれていますが、国民の権利保護の為にも戸籍情報がより安全に取得でき、また有用に活用される様に改善できる様に士業と役所が協力していけると良いですね。

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。