不動産 司法書士

「相続難民」がこれから急増するって本当??

投稿日:2022年8月26日 更新日:

本日は、みなオジが定期的に開催する物申すシリーズとなります。

プレジデントオンラインにおいて2022年4月に掲載した以下の記事が、2022年上期の反響の大きかった記事ベスト5という事で、8月25日に再掲されていました。

内容を紐解くと、「大量相続で家が余るようになれば、高齢者もワンルームマンションを借りられるようになる。相続税を払えず、自宅を追われた『相続難民』の住まいになるかもしれない」という、不動産プロデューサー(?)の牧野知弘氏作家でジャーナリストの河合雅司氏の対談形式の記事です。

記事を読んでいくにつれ、記事内容と題名との乖離(前段の「高齢者がワンルームマンションを借りられるように…」というのはさて置き、相続税を払えず、自宅を追われた『相続難民』が大量発生するという牧野氏の主張)に特に違和感を感じたので、みなオジの司法書士の業務を通じた経験と知識から反論していこうかと思います。

とは言え、いきなり反論というのも不躾なので、まずは記事について賛同・共感できる部分から触れていきましょうか。

序論の「老後資金が足りない人がすぐにできる自衛手段」として、①働けるうちは働くこと、②可能な人は資産運用すること、③自分でできることを増やして家計支出を抑えることというのは、おっしゃる通りです。

以前、老後2000万円問題が取り上げられ「下流老人」という言葉が流行しており、老後資金の確保についてもその中で散々議論されたもので、至極真っ当なご意見です。特に文中「一発逆転で資産を増やしてやろう」というのは、低所得者層が考えがちな発想で、これによって更に状況を悪化させて貧困層に転落する例(最悪な場合、投資詐欺に引っかかる事も)をよく聞きます。

思うに牧野氏は「下流老人」に続くパワーワードを捻り出して2匹目のドジョウとして『相続難民』をバズらせようとしているのではないかと伺えます。

果たして相続難民が生まれる理由が本論で展開されていく訳ですが、難民という結論に流していきたいという意識が働き過ぎるのか、結論ありきの話の構成に、若干展開の強引さが生じてくる訳です。

東京圏がこれから迎える大量相続時代

まず、相続難民が生まれる根拠として、団塊の世代が寿命を迎える事による「大量相続」をキーワードとして話が展開されます。

まず著者は2015年の相続税法の改正による基礎控除額の減少の影響を挙げています。これは、今まで基礎控除額が「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」になって、相続税を支払う対象が拡大(課税件数の割合が4%→8%)したというものです。

その結果、相続人一人の場合3,600万円の基礎控除があるものの、地価の高い都内の戸建住宅においては、築古の物件でもその控除額をオーバーするというのです。

ちなみに先ほどの「相続難民」というワードですが、この言葉からどのようなイメージを受けるでしょうか。この言葉を目にした人の多くは、相続税が払えずに慣れ親しんだ実家を追い出されてしまう、というイメージを抱くのではないでしょうか。

ただ、この土地代というのが曲者で、路線価×坪数で評価額が出ますが、なかには売れない土地もあって、処分しようがないので税金が払えず物納ぶつのうとなります。しかし物納にはさまざまな条件があって、簡単ではありません。ですから今後、相続はしたものの預貯金がないために税金が払えない「相続難民」が出てくる可能性が大いにあります。

著者の牧野氏は、上記の様に結論付けしていますが、みなオジ的にはココに矛盾を感じます。というのも、売れない土地は処分できないとありますが、売れない土地というのは大抵価値のない土地であり、価値が無ければ都内でも3,600万円という基礎控除を超える事はありません。

「小規模宅地の特例」を黙殺?

また、被相続人の居住用不動産(宅地)が相続の対象になった場合は、宅地の評価額が80%減となります(小規模宅地の特例)。この制度は自分も住んでいる住居を相続したときに、相続税が払えずに住居を売却するリスクを抑えるという相続人救済のための制度です。

具体例を挙げると、被相続人(父)が時価2億円の土地を有していたとして、それが居宅の底地であれば、まず路線価評価で1億6,000万円程度の評価額となり、そこから上記特例を適用する事でその相続人(父と同居していた子)の相続税評価額は3,200万円となり、そこから基礎控除を引くと相続税は0円という事になります。

著者が「相続難民」をどのような定義で使っているか、みなオジには分かりませんが、居住用不動産が高かろうが二束三文だろうが、皆さんが想像していた難民化(=相続税を支払えずに住み慣れた実家を追い出される)という事はないと言えます。

さらに言えば、近年は「リースバック」や「不動産担保ローン(リバースモーゲージ含む)」という仕組みを使って老後資金と居宅を確保する方法があるので、正直言って「相続難民」というのは無用に恐怖を煽ったり、アイキャッチするための謳い文句に過ぎません。「不動産プロデューサー」を自称するくらいだからリースバックくらいは知っていると思うのですが、著者の両氏にはいったいどのようなケースで相続税が払えないという事例があったのかお聞きしたいものです。

リースバック…不動産売買と賃貸借契約が一体となったサービスで、自宅をリースバック業者に売却し、その業者と賃貸借契約を締結することで、売却後も同じ家に住み続けることができるというもの。

リースバックについても問題のある不動産は売却を拒否されますが、そもそもその様な不動産は相続税そのものが掛からないので、どちらにしても相続人が難民化するという事はありません。

両氏はおそらく相続税について勘違いをしていると思われます。確かに税制改正大綱を見ると富裕層の過度な節税対策に釘をさすかの如く対策を講じており、富の再分配や格差の固定化の防止を掲げています。

著者が「政府は今後、資産課税強化の方向に行くと思います。」と懸念する通り、富裕層や資産家等取れるところからは取ろうとする姿勢は強まるものの、たまたま都心に住んでいたからと言って資産家でも何でも無い中流家庭にまで課税して住み慣れた家を取り上げようとは考えていません。

関連過去ブログ:不動産節税訴訟(タワマン訴訟?)と総則6項問題は→コチラ

「人生100年時代」は親も子供も金銭的自立が必要

本論の後段部分で、人生が長くなる分、親の相続が発生する前に自分が死んでしまう可能性に触れ、金銭的自立を促していますが、メインテーマで掲げている「これから急増する「相続難民」のさみしい老後」とは直接関係しない点も文章として読みにくい原因となっています。

分かりやすく言えば、前段は相続によって相続税が払えず家を失う危険性は、どちらかというと相続対策が必要な、捉えようによってはかなり恵まれた属性の(10億円位の豪邸を保有する)人の話であり、後段では相続をあてにして貯蓄をしない等経済的自立を怠ると経済的に困窮するという貧困高齢者の話になってしまっているという事です。

そして帳尻を合わせる様に、最後に両者を繋げるキーワードとして唐突に「ワンルームマンション」を登場させて、高齢者にはワンルームマンションがおススメというよく分からない帰結で対談が終了していきます。筆者たちはワンルームマンション仲介業をしているのでしょうか?というくらい急な展開です。

 最近、デベロッパーが若年層向けに開発した賃貸マンションで、空室率が急上昇しています。特に都心へのアクセスが良い割に地価が比較的安い城東地区では、空室がまったく埋まらないことが報告されています。さらに、相続した一戸建て住宅を賃貸に回す動きも今後加速するでしょう。このようななかで、大量相続時代を迎えることになるわけですから、いっそうの値崩れが予想されます。
空室がまったく埋まらない?一応、空室率10%台ですが…

一応、文末のまとめにも丁寧にツッコミを入れさせてもらうと、相続税も払えないような高齢者が若者向けに開発したような賃貸マンションに住めると思わない方が良いでしょう。(先ほどの10億円豪邸の例の人は、売却して相続税を支払った残りでタワマンや高級老人ホームに入居できます。)

確かに、ワンルームの空室率は2020~21年で上昇(東京23区)していますが、都心にある利便性の高いワンルームマンションについては、高齢者向けに賃貸しなければならないほど客付けに困っていません。(ソースは下記記事)

コロナの影響でマンション空室率が上がっているって本当?

新型コロナウイルス感染症の影響で、マンションをはじめとした賃貸物件の空室率が上がっているといわれています。未だ収束の兆しがみえない中、不動産投資に踏み出すタイミングを計りかねている…という人もいるでしょう。実際のところ、空室は増え続けているのでしょうか。今回は、株式会社タスの分析データをお借りして、マンションやアパートの空室率に関する実態を確かめてみたいと思います。

データから想像できること

コロナ発生時と比べると、たしかに空室は増えているようです。しかしながら、首都圏では空室率TVIに占めるアパートの割合が高めの傾向にあります。もしかしたらマンションの空室はそれほど多くないのかもしれません。

引用元:モバチェックコラム 2022/06/09 11:00  INVASEメディア編集部
東京全域東京23区東京市部
2020年1月13.1511.9617.20
2021年9月14.50(31.66%)13.72(26.27%)19.10(46.67%)
数値は、株式会社タスが開発した賃貸住宅の空室の指標(TVI)
カッコ内の数値はデータに占めるアパート(木造・軽量鉄骨造)の割合

また、「相続した一戸建て住宅を賃貸に回す動きもあり、賃貸市場はいっそうの値崩れが…」とありますが、これ本気で言ってます?政府によるインフレ誘導と最近の物価高で、そんな都合良く家賃だけ下がる訳ないでしょう。実際私が賃貸している不動産で今年更新した物件は、全て値上げ要請して、賃借人側の承諾を受けています。

一般的に高齢者にも手を差し伸べる様なワンルームとは、マンションではなく、いわゆる木造の築40年を経過した風呂無し、共同トイレのアパートかもしくは「無料低額宿泊所」(無低)です。

仮にワンルームマンションが契約してくれるとしても、その様なワンルームマンションは23区内で10万円前後するので、少なくとも相続税が支払えないような人たちが払える価格帯に設定されておらず、そもそもミスマッチです。

皆さんはこの様な記事を見て安易に、老後に困窮しても「普通の」住宅に住める等と思わないで下さい。せっかく、対談内で「老後の準備が大切」と注意喚起をしていたのに、最後の提案がコレではあんまりです。

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。