最近流行のリモートワークが浸透したことを反映してか、盛んに郊外押しをするメディアや、都心物件終了説を垂れ流すニュースが目立ちます。確かに一部の社会人はリモートワークで週1~2日の出社で住むようになったので、実家近くに引っ越そうか等と検討する家庭もあるでしょう。しかし、この情報を真に受けて、簡単に今の住居を手放してしまって大丈夫ですか?あなたがスーモやLIFULL HOME’Sで検索しているまちは本当に魅力的な街ですか?と聞きたいです。
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不動産ポータルサイトの「LIFULL HOME’S」が調査した「緊急実施! コロナ禍での借りて住みたい街ランキング(首都圏版)」が、みなオジ的に結構ツボったので、今回はこのテーマに触れていきたいと思います。
枕言葉がイカしてますよね、「借りて住みたい」しかも「コロナ禍で」…。裏を返せば、買っては住みたくない、しかもコロナ騒ぎがなかったら更に住みたくないという事?これは誉め言葉なのか、ディスっているのか真意が読めません。(読者に判断をゆだねるという手法か?)
目次
ランキングの調査概要は?
このランキングを見て一番最初に思ったのが、本厚木とか、蕨って良くも悪くもランキングに載る街じゃないよな~という事です。まあ、これはアンケート記事の文末の「調査概要」を見ればわかりますが、問い合わせ数をベースにしたある意味客観的評価に基づくランキング結果の様で、問い合わせ数が正しく集計されている前提ならば、ケチのつけようがない結果なんですね。
調査概要 |
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対象期間 2020年4月1日 ~ 2020年8月18日 対象者 LIFULL HOME’S ユーザー 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県を対象とした 集計方法 ・コロナ禍での借りて住みたい街ランキング LIFULL HOME’S に掲載された賃貸物件のうち、問合せの多かった駅名をそれぞれ集計 |
ツッコミどころその① ランキング名と集計があっていない
つまり、言えることは、「住宅にかけられる予算内で借りたい駅ランキング」であって、コロナ禍でお財布事情もお寒くなっているという条件が付加されているという様に脳内変換すれば良いという事でしょうか。もともと、この手のランキングはSUUMOで毎年掲載している「住みたい街ランキング」が発祥(つまりは焼き直し企画)です。本家の「住みたい街ランキング」も、結構ツッコミどころはありますが、今回のアンケート結果で読者をどこに誘導しようとしているのでしょうか。そもそも同じ記事内を見てみると「問合せ増加率」ランキングというものも載っていますが、「コロナ禍での借りて住みたい街ランキング」をうたうなら、この問合せ増加率のランキングを見た方が良いかと思うのですが…
順位 | 増加率 | 街(代表的な沿線) |
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1 | 146.22% | 八街(JR総武本線) |
2 | 140.28% | 姉ヶ崎(JR内房線) |
3 | 134.66% | 大網(JR外房線ほか) |
上の表のベスト3を見ると、冒頭の結果より更に地味(住んでいる方、ごめんなさい)ですね。問い合わせが多いという事は、人気があるというよりむしろ物件の絶対数が多いという事ですので、駅の人気には直接的には繋がらないでしょうね。人気の街(ブランドアドレスだったり、高級住宅地)の場合、そもそも供給がない上に、一度住んだ人は、中々転出していかない傾向にあります。よって、空き物件が掲載されないことになりますので、結果的に問い合わせ数は伸びないことになります。
ツッコミどころその② 今流行りの「リモートワーク」に安易に繋げすぎ
恐らく、このランキング発表の意図は、「コロナ禍でリモートワークが推進されているよね。だから、会社の近く(都心)ではなく、自然豊かで、部屋も大きい郊外の駅が注目されていますよ」、という事を示唆したいのでしょう。記事中では「志向の郊外化」と名付けています。実際にランキング結果を受けた解説の中で、コロナ禍における家探し(問い合わせ)の傾向を共通点として、以下の2点にまとめています。
「志向の郊外化」で問合せ上位にランクされる街の共通点 |
・多少都心方面へのアクセスに時間がかかっても、電車を乗り換えずに済むエリア ・郊外のターミナル駅で駅勢圏が比較的広く、生活利便性がある程度担保できそうなエリア |
残念ながら、「問合せ増加率のランキング」ベスト3の駅を見ると、上記の共通点は当てはまりません。この結果からみるに、企業におけるリモートワークの推進以外にも、人が郊外に流れる理由はあると思います。
リモートワークの普及率はそれ程ではない
そもそも、リモートワークはどの程度普及しているのでしょうか?
「リモートワーク実施率」緊急事態宣言下から約3カ月で12.3pt減少し23.2%。「毎日リモートワーク」は7.5%(9.9pt減)、「毎日出社」が73.6%(15.1pt増)。 |
「リモートワーク」の実態に関する調査レポート(2020年9月23日)
・調査対象:20代~60代の自由業を除く、有業者9,816名
・調査期間:2020年8月21日(金)~2020年8月24日(月)
なんだかんだで、毎日出社している人が73.6%で、緊急事態宣言下の2020年5月調査から15.1pt上昇しているとのことです。一方、毎日リモートワークの割合は7.5%(9.9pt減)。個人的には週2日以上出社するなら、郊外に転居するのは逆に苦痛かなと。いくら、リモートワークできたとしても、出社日に往復3~4時間電車に乗る方が感染リスク・ストレス共に高いのではと思います。
通勤定期代の支給廃止は、サラリーマンの郊外流出を思いとどまらせる?
また、これまでは郊外に住んでいたとしても、通勤定期が支給されていたことから、休日には都心までの交通費がそれなりに安く上がっていました。しかし、今後は、下記の富士通に倣って各企業が通勤定期代の支給を廃止するでしょうから、都内に友人と遊びに行ったり、買い物や所用でちょっと外出と言っても、そのたびに交通費が掛かってくることになるでしょう。
富士通は6日、新型コロナウイルス感染を防ぐ「新しい生活様式」に沿った働き方を導入すると発表した。製造拠点を除く国内約8万人のグループ社員を対象に、自宅や最寄りのオフィスで働くテレワークを勤務形態の基本とする。決まった場所に通勤する概念をなくし、7月から通勤定期券代の支給を廃止。またテレワークと出張で代替することにより、単身赴任を減らす。7月から定期代に代わる在宅勤務費用として月5000円の「スマートワーキング手当」を支給する。光熱費や机の購入などに充ててもらう。出勤が必要な場合や、業務都合による移動の交通費は実費精算とする。
nippon.com 2020.07.07 富士通、8万人テレワーク=通勤定期廃止、単身赴任削減
ちなみに、大企業の富士通でもスマート(リモート)ワーキング手当に5,000円というのは、少々寂しい額の様な気がします。そもそも、日中家にいることによる光熱費の増加だけで5,000円くらい簡単に吹っ飛びそうです(ただし、社内飲み会が多い人は交際費が削減出来て良かったかもしれませんが。)。富士通でこれですから、他の中小零細企業では、おそらく「スマートワーキング手当?何それ?」みたいな感じではないでしょうか?「むしろ通勤時間が無くなるんだから、みなし残業代を20時間増やすぞ!」などのワンマン社長の横暴がまかり通る会社もありそうです。
実際、リモートワーク=裁量性であるという理由だけを根拠に、残業代は一切出さないとする企業もあるようです(ケースにもよりますが、多くの場合(一般的な事務職であれば)「事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)」の悪用・潜脱事例となる可能性があります)。
郊外に住むことで失うもの
みなオジの悪い癖で、また本論から脱線してしましまいました。先ほどの例で、「問合せ増加率」ランキングの駅(何度も引き合いに出して申し訳ないですが)を見てみると、八街・姉ヶ崎・大網駅と新宿駅間の往復運賃(早い順)で、それぞれ2,772円、3,372円、4,232円です(乗車時間は、往復でゆうに3時間は超えてきます)。毎度、新宿まで行かないにしても、通勤定期が無くなり、都内に行くのに毎回この金額・時間が掛かってくると思うと簡単に郊外に転出しようとは考えにくいのではないでしょうか?
意にそぐわない郊外撤退・戦略的撤退としての郊外転出
そうすると、都心アクセスが良く、駅勢圏が広いとは言い難い、八街・姉ヶ崎・大網駅の千葉トリオが「問合せ増加率ランキング」のトップ3を占めている事実は、リモートワーク以外の理由があるのではないかと考えてしまいます。想定される主な理由は、都心アクセスなどの利便性は二の次と考え、ひたすら家賃の低い物件に問い合わせをしたという事、その要因としては、リストラ、収入減というところではないでしょうか?
HOME’Sの記事内にはご丁寧に駅名にリンクが貼られており、クリックするとその駅のワンルーム物件のページに飛びます。物件の検索条件を揃えようと思いましたが八街駅は駅徒歩圏の物件が0件で、バス便で物件のみ(徒歩20~30分)でワンルーム築5年程度で大体5.5万円でした。バス便のみの物件しかないという状況を見て思ったことですが、都内に住んでいる人が郊外を選択するにしても、いきなり八街・姉ヶ崎という選択肢は浮かばないだろうと思うのですが、皆さんはどう考えますか?みなオジが思うに、これらの駅の物件に問い合わせた人は、船橋駅などの都内にアクセスが良い東京寄りの千葉県内の駅に住んでいるサラリーマンなのかなと思います。ちなみに船橋駅で築年数・専有面積等の条件が近いところで見ると大体6.7~7万円台前半の家賃でした(ちなみに錦糸町駅ですと9.5~10.5万円まで上がります)。家賃だけでも5万円台に抑える事ができれば、バイトなどで何とかコロナが収まるまで食つなぐことができるという算段が付くのではないかと思います。みなオジは地方出身者なので、経済的に困窮した場合の選択肢としては、故郷の実家に帰るというのが一番楽ではあるのですが、一度実家に帰ると、もう2度と上京する機会は無くなってしまうのでないかという恐怖感もあり、その妥協点として、八街・姉ヶ崎辺りの家賃帯の物件まで撤退して再起を図るといった感じがします。
結論~「住宅にかけられる予算内で借りたい駅ランキング」に改名したい
このことからもわかるように、このランキングは「志向の郊外化」といったトレンドワードを出して、流行りのライフスタイルである「リモートワーク」に絡める事で「借りて住みたい街ランキング」なる調査結果を出していますが、やはり、冒頭でみなオジが言い換えた様に「住宅にかけられる予算内で借りたい駅ランキング」に変えた方が良いと思っています。ランキング名をキャッチーな文言にすることで記事やポータルサイトのアクセス数を伸ばそうとする意図が透けて見えてしまいます。仮に、その様な意図が無かったとしても、郊外物件の問い合わせ増加をリモートワークに安易に繋げようという、結論ありきの展開になっている様な感じがしてなりませんでした。このこと自体は、捉え方の問題なので、編集者を非難するつもりはないのですが、この記事が独り歩きした時(一面だけ切り取られた時)に、なぜその郊外物件に問い合わせをしたのかという本質、つまり、経済的に追い詰められた結果、「志向の郊外化」等とは全く関係ないところで不本意ながらも郊外に追いやられてしまった経済的弱者の存在を矮小化してしまう事を懸念しています。