日本経済新聞(2019年12月12日付)で「米国では年収1400万円は低所得」という、衝撃の見出しがあったのを覚えているでしょうか?ニュース記事を見ると米住宅都市開発省の調査を挙げ、サンフランシスコでは年収1400万円(4人家族)を低所得者に分類しているという内容でした。(ちなみに日本では2017年の世帯年収の平均は約550万円で、1000万円を超える世帯は10%強)
人材の価値が低い日本ではエリート人材が海外に流出していく可能性があると指摘。ネットでは「日本人が海外に出稼ぎに行く時代が来るかもしれない」などという声も上がった、等と締めくくられていました。まさにジャパンアズNo,1は過去の栄光に成り下がったといえるような書きぶりでした。
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OECD加盟国実質賃金で下がっているのは日本だけ
サンフランシスコの場合、シリコンバレーの世界的IT企業の社員がこぞって周辺の不動産を買っているために不動産価格が高騰しているという事情もある。しかし、ニューヨークでは低所得者に分類される世帯年収は約935万円、ロサンゼルスは約915万円。一方の日本は、2017年の厚生労働白書では300万円未満が低所得者とされており、世界のレベルとものすごい開きがある。
その背景には日本の経済成長の低迷がある。OECD加盟国の実質賃金の変化を見ていると、1997年を100とした場合、2016年にはスウェーデンは138.4、オーストラリアは131.8、フランスは126.4、イギリスは125.3、デンマークは123.4、ドイツは116.3、アメリカは115.3とみな増加しているのに、日本は89.7と減っていて一人負けの状態だ。
ここまで報道を見て、大半の人は暗澹たる気分になるわけですが、ひねくれ者のみなオジはこうも感じるわけです。
①日米の比較において物価以外などの比較は検討されていない。 ②アメリカの1,400万円の貧困層というのは、日本が危惧している格差社会の行き着く先の姿ではないか。 |
サンフランシスコは「隣の芝生」では?
引用文からも分かる通り、日本の低迷は「OECD加盟国の実質賃金」を見ればわかります。確かに「実質賃金」ですので、物価を考慮(労働者が実際に受け取る名目賃金から消費者物価指数をデフレートしている)のですが、「豊かさというのは物価だけで判断されるわけでは無い」という重大な視点が欠落しているような気がします。
例えばですが、このコロナ禍でも話題になりましたが、アメリカでは新型コロナウィルスによる死者数が50万人に達した(BBCニュースJAPAN2月23日)と報道されました。日本における死者数である2021年3月時点で8,000人と比べると、水際対策の違いや遺伝的感受性の地域的な違いでは片づけられないものがあります。つまり、日本の医療体制だったり、保険制度により高齢者や生活保護世帯であっても同水準で医療を受けることができるという、更に実質的な比較がされていないのです。もちろん、日本の皆保険制度が良いのかという議論もありますが、アメリカでは救急車に乗るのに$1000~$1500(10万円以上)かかることを考えると、1400万円稼いだとしても全く割に合わないのです。この様な両国の違いが、死者数に影響しているんじゃないの?とみなオジは言いたいわけです。
幸せって何だっけ?
逆説的に言えば、サンフランシスコに住んでいても世帯年収1,000万円は低所得とカテゴライズされる訳で、日本人より多く稼いでいても、コロナでお亡くなりになるリスクが高いとしたら、果たしてアメリカ人は日本人より幸せといえるのでしょうか???
日本の住みやすさを探してみた
また、過去のトピック住むところに運気は変わる?港区オジさんが港区に住む理由でも記載した通り、日本の子育て環境において(港区などの都心部は優遇されすぎという意見もありますが)、中学校卒業まで医療費負担無料といったメリットについては、今回の様な議論の時だけ都合よくすっぽり抜け落ちている気がします。子育て支援でいうと、2019年10月から「幼児教育・保育の無償化」がスタートしており、幼稚園・保育園に通う子どもを持つ世帯にとっては非常に恩恵を受けているのではないでしょうか。
施設別の無償化の上限 | 0~2歳児クラス | 3~5歳児クラス | |
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【2号・3号認定の場合】 保育園 認定こども園の保育園部分 地域型保育 |
住民税非課税世帯は無料 ※それ以外の世帯については、第2子が半額、第3子以降が無料 |
無料 | |
【1号認定の場合】 幼稚園 (子ども・子育て支援新制度に移行した施設) 認定こども園の幼稚園部分 |
通常教育時間 | ※プレ保育や満2歳児クラスなどのプレスクールの利用料に関しては、自治体によってルールが異なります。 | 無料 |
預かり保育 | 月額1万1,300円まで無料 | ||
幼稚園 (子ども・子育て支援新制度に未移行の施設) |
通常教育時間 | 月額2万5,700円まで無料 | |
預かり保育 | 月額1万1,300円まで無料 | ||
認可外保育施設 | 住民税非課税世帯は 月額4万2,000円まで無料 |
月額3万7,000円まで無料 | |
就学前の障害児の発達支援 | ー | 満3歳を迎えた翌年度から小学校入学までの3年間、無料 |
また、みなオジもごっそり所得税・住民税を持っていかれますが、住宅ローン控除を始めとする確定申告の還付申請をすることで、かなり税負担は少なくなっています。アメリカにも同様の制度があるか知りませんが、みなオジはこの様な状況もあり、それほど税金が高いと感じたことはありません。
要するに、平均「1,400万円」という金額に目が行きすぎて「隣の芝生状態」に陥っている記事ではないかと感じました。今挙げた事の他にも、「海外の不都合な事実」というのはゴロゴロ転がっていると思われ、そういう事を考えず(もしくは調べず)に目先の収入に釣られて安易に海外移住や出稼ぎ等を選択すると、痛い目に合うと思います。
海外出稼ぎの是非がロクに議論されていない件について
まあ、みなオジ自身は海外で働くことに関しては推奨派です。(ただ、自分の語学レベルの問題でみなオジは国内専用という話です…^^;)「エリート人材の流出が~」とか言ってますが、プロ野球やプロサッカー選手が世界から認められて世界の主要リーグで活躍しているのは、好意的に見られる中、なぜビジネスマンが海外企業に行くことは悲観的なのかも良くわからん論調かと。
経済的な観点でみても、国内で生み出す額より海外出稼ぎによって生み出すことができる額が多ければ、GDPにも貢献する訳ですから別にいいでしょ?少なくとも、国内でやりたい仕事が見つからずに燻って管を巻いているよりは、海外で働いた方が雇用対策に税金使わなくて行政も都合が良いでしょ?
格差社会の先進国になりたいか?
上記の保険制度でも例示した通り、アメリカで暮らしやすいというのは、あくまで一定水準の収入がある人に限られるのではないかと思います。アメリカほどの格差社会に至っていない日本ですら、派遣社員制度や上級国民バッシングで不満が渦巻いている訳ですから、1,400万円が低所得者にカテゴライズされる世の中になると、もはや不満というレベルではなく、絶望しかないのではないでしょうか。
逆に言えば、物の豊かさが無くても病気・暴力に極度におびえることなく、次ジェンダーギャップもない、最低限のセーフティネットが整備されて、趣味や表現の自由が確保される多様な生き方が許容される社会にシフトしていくのが「全体最適」なのではないかと思う訳です。日本(国民)は、なまじ高度成長を経験したことから、拝金主義や極端な資本主義に自らをがんじ搦めにしているような気がしている訳です。
個人的には、たかだか年収が400~500万円上がったところで、週休1日制に逆戻りしたり健康寿命が縮む方がよっぽど不利益なわけで、人によって何を重視して生きていくかを選択できる社会に舵取りして欲しいなと感じます。そういう意味では、思考停止的に残業は悪だという風潮もいかがなものかと思います。仕事が好きな人・ガンガン稼ぎたい人は36協定を枠外とできる権利を会社と合意できるような自由な枠組みを整備してあげればいい訳です(労務関係は伝統的に会社(使用者側)が強いから、36協定は必要なのだという正論は敢て無視して話してます)。
日本も捨てたもんじゃないと思うけど…
アメリカ人は保険制度一つ挙げても「自由」の代償として「責任」も負っているといえ、ある意味日本よりハードゲームで生きているということを、理解した上で、ニュースを展開して欲しいと思いました。
格差社会が進行しつつあるといわれていますが、まだ何とか自分の実力で何とかなる時代であるとも思えます。しかし、このまま所得の上昇を目指せば、この争いから脱落していく貧困層も増えていくのは必然といえます。(特にコロナ禍において、勝ち組と負け組の差が更に広がったと実感した人が多かったのでは?)
個人的には日本でしか生きていけないほどヌルい人間となってしまった気もしますが、高度成長期の過去の栄光にすがって現状を非難するのではなく、もう少し自国の良い所(お金以外)を再確認し、その上でどの様な社会を目指せば良いのかを議論してみても良いのではないでしょうか?