事業を営んでいると、色々な所から問い合わせや、ご案内の連絡をいただくことがあります。そのほとんどは営業電話だったり、ワンルームマンションの業者だったりします。この手の連絡はよくあるので、もはや不快というよりは日常の一部、空気の様な存在という感じです。しかし、中には怪しさ満点のモノ、意味不明なモノなどいろいろなモノに遭遇します。今回はみなオジにきた連絡で印象に残るものを上げていきたいと思います。
目次
広告会社を名乗る、集客業者
司法書士と言えども、独立した当初はクライアントが付いてない事が多いので、事務所経営も不安定になりがちですよね。そこで、営業手段としてまず思いつくのがホームページ経由による顧客獲得でしょう(ちなみに、本人が自ら動くという発想は無い)。しかし、司法書士とはいえ、それまでは社会人経験の無い人も結構いるので、HP一つ開設するのにも何から手を付ければ良いかわからず、え?SEO対策、WEBマーケティング活動?脆弱性??改ざん監視??マルウェア駆除、はぁ??何じゃそれ?という感じでいきなり躓くわけです。
そうやって悩んでいる所にタイミングよく営業の電話が鳴り響きます。「○○先生。お世話になっております!弊社、全国で多くの司法書士事務所様と「提携」させていただいており、好評をいただいています。この度、貴事務所運営のお手伝いをさせていただきたく、ぜひご挨拶に!」という感じです。「提携」と聞くと、何やら仕事があるような言い方です。聞けば、相手は広告制作会社または士業コンサルタントを行っており、士業との取引実績は豊富との事。
私も電話でこの手の業者から連絡をもらいました。登録したばかりの右も左もわからない頃だったので、彼らのことを純粋にHP作成の広告会社と思っていました。「参考までに料金体系などの資料を下さい」と、電話口の営業担当にお願いしたのですが、「直接説明に伺いたいので、資料はその時にご確認いただければ…」と、歯切れが悪い感じだったのをよく覚えています。HPに対する興味(実は、当時はサラリーマンだったので、全く営業活動で困っている事は無かった)というより、その歯切れの悪さに逆に興味を持った(性格悪い奴だなぁ)ので、小1時間時間をとって営業担当から話を聞くことにしました。
サービス概要
相手方が提案するサービスの概要を、簡単に説明すると以下の通りです。
①広告制作もしくは事務所のHP作成・SEO対策を入り口に、オプションとして自社が運営する司法書士検索サイト(法律相談の紹介を行う)への登録を勧めます。 ②利用者は紹介料なく案件に応じた専門家に依頼をすることができます。オプションにより、様々な付帯サービス(問い合わせ専用電話番号発行)があります。 ③サイト運営者は司法書士に対し広告料(紹介料?)を請求します。 |
上記を踏まえて、みなオジとの実際のやり取りをご覧ください。
(営業担当と名刺交換)
(営業)「みなオジ先生、開業はいつ頃ですか?登録直後で事務所経営でお困りではないですか?弊社がセンスの良いHP作成のサポートを行いますので、バンバン集客できますよ。」
(みなオジ)「ふーん」
(営業)「また、オプションで弊社は士業のコンサルタントも行っており、自社で「○○」という法律相談のサイトを運営しております」
(みなオジ)「ふーん」
(営業)「サイトは月○○PVの訪問がありますし、サイトは細分化されており、ミナおじ先生の専門分野を優先的に登録いただければ、優良顧客のご紹介に繋がります(どや、興味あるやろ?)」
(みなオジ)「ふーん」
(営業)「営業時間であれば専用ダイヤルからミナ先生の対応の可否をお伺いさせていただきますし、夜間であれば相談内容のメールを転送させていただきます。ご興味のあるご依頼があれば、ご依頼者とコンタクトを取っていただき受任いただくことが可能です」
(みなオジ)「お客来られても困るんで、ホームページとか送客必要ないです」
(営業)「(´・ω`・)エッ?」
(みなオジ)「そもそも、そんな送客されても、司法書士という職業柄、簡単に受任拒否できないんで。その辺りはどのようにコントロールすれば?」
(営業)「いえ、弁護士をはじめ多くの専門家先生に登録いただいているので、依頼者はいずれかの先生方に依頼できますので問題ありません。(キリッ)」
(みなオジ)「(そういう問題じゃないと思うけど…、)ちなみに料金は掛かるんでしょ?案件紹介料とか」
(営業)「はい、広告料という形で月○○円(それなりの値段)で、○○オプションで○○円、××で××円(それなりの値段)となります。」
(みなオジ)「なんか、前、司法書士会の研修時に口酸っぱく非司提携の注意喚起されたんだけど、御社のサービス大丈夫?」
(営業)「もちろん、問題ありません。(キリッ)」
(みなオジ)「(キリッ、キリッ、うるせーな)わかりました、検討してご返事します。」
ちなみに、この集客方法は色々と物議を醸す「問題のあるスキーム」なのですが、さて、この集客方法のどこが問題かおわかりでしょうか?
紹介料の支払い=「不当誘致」
実は司法書士は、案件紹介を受けて対価の支払いを行うこと及び受ける事は「不当誘致」として禁止されています。これらは懲戒・罰則の対象となる行為です。
根拠条文は、以下のものがあります。
司法書士倫理規定 (不当誘致等) 第13条 司法書士は、不当な方法によって事件の依頼を誘致し、又は事件を誘発してはならない。 2 司法書士は、依頼者の紹介を受けたことについて、その対価を支払ってはならない。 3 司法書士は、依頼者の紹介をしたことについて、その対価を受け取ってはならない。 (非司法書士との提携禁止等) 第14条 司法書士は、司法書士法その他の法令の規定に違反して業務を行う者と提携して業務を行ってはならず、 またこれらの者から事件のあっせんを受けてはならない。 2 司法書士は、第三者に自己の名で司法書士業務を行わせてはならない。 |
司法書士には上記の様な倫理規定が定められており、普通の会社では問題のない誘致(集客)行為も、ケースによっては倫理規定違反となって処罰(懲戒)の対象になるのです。司法書士は基本的に依頼者の紹介を受ける/することはできないのです。また、この規定は各司法書士会の規則にも定められております。
みなオジが属する東京司法書士会規則には以下の様な条文があります。
東京司法書士会規則 (非司法書士との提携禁止) 第95条 会員は、司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者に、自己の名義を貸与する等、他人をして司法書士の業務を取り扱わせるよう協力し、又は援助してはならない。 2 会員は、司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者から事件のあっせんを受けてはならない。 |
要するに、「司法書士から以外は紹介料もらうな、渡すな」という事ですね。
あっせん行為とは
「斡旋行為」とは仲介と同様の意味で、通常有償にて行われる仲介をおこなう取引。あっせん自体は通常の商行為であって問題ないのですが、司法書士は司法書士でない者(非司)から有償で仕事を回してもらうことは許されないのです。
同じ士業で比較すると、隣接士業である税理士は不当誘致の禁止は明記されているものの、あっせん料支払いの禁止規則(倫理規定14条に当たる規定)は無い様です。この様に他士業と比較しても司法書士会は非常に高い職業倫理を司法書士に求めている訳ですが、これは独占業務である登記申請代理を始めとする司法書士業務の職責(国民の権利を擁護する立場にある為、品位を以って、公正かつ誠実に業務を行う:司法書士法第1~2条)の大きさの裏返しという事でしょうか。
この手の紹介料で懲戒を受けるケースとして、以前は整理屋(債務整理の事件処理を代行する者、詐欺を行う悪徳業者も多い)からの提携話が多かったようです。
それらに代わるものとして最近多いのが,例に挙げた様な広告(というか送客サイトを経由した案件紹介)を利用した非司提携行為なのです。
金銭交付を伴うあっせん行為が「不当」に該当する理由
規定されているからダメなのだというのでは説得力がありませんが、条文や規定は大抵「なぜ」規制がされるのかについての理由は明記されていません。これは理由(法の趣旨)を書くことによって、これを脱法的に行なおうとする者が続出するからです。
理由その① 職業倫理的問題
司法書士(だけでなく弁護士)は、紛争解決や法律に関する諸手続きを行う代理権限を独占的に与えられており、彼らは国民の社会権や財産権等を守るために重要な役割を担っています。この様に、社会的・公益的な業務を行う資格者が、金銭につられて仕事を追い求める事は倫理的に問題があるとしています。この様に記載すると、多くの人は「彼らもボランティアではなく、生活のために仕事をしているのだから、紹介料が生じるのは仕方がない」と思われるかもしれません。
しかし、紹介料は報酬の〇%とした場合に、この紹介料分(悪く言えばキックバック)の経費(会計的には使途不明金ですね)が依頼者に対する上乗せされ請求されると考えると、果たして紹介料の授受の下で業務を行う事は。国民の権利擁護に資すると主張し続けられるでしょうか?
通常の営利事業は紹介料の存在は当然のモノとしてビジネススキームに組み込まれています。フィットネスクラブや不動産会社が良く行う「友人紹介キャンペーン」というのもキックバックと同様の性質です。そのサービス料にキックバックやその他諸々の経費が乗ってもそれは集客のためにはしょうがないと言えます。しかしそれは、競争原理が働く一般市場の話であって、独占業務が認められた司法書士を始めとする士業全般にも当然それらが認められると考えるのは理解を得にくいでしょう。
理由その② 事務所乗っ取り問題
これは皆さんの記憶に新しい話かもしれません。2020年6月に弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所が東京地裁から破産手続きの開始決定を受けたという事件です。
弁護士もコロナの影響はあるのかな?くらいの感覚の人が多かったかもしれませんが、実はこの破綻の理由が広告会社による事務所乗っ取りだったと言われています。ちなみに東京ミネルヴァ法律事務所とは、CMでその名前を見聞きした人も多いかもしれませんが、一時期過払い金のテレビCMで有名だった弁護士事務所の一つです。
弁護士事務所と言えば、債務整理や民事再生のプロであるため、弁護士事務所自身は当然健全な経営を行っているだろうというイメージがあるでしょう。みなオジもそんなイメージを持っていました。
しかし、実際のところは、無計画な広告出稿やオフィス賃料を始めとする事務機材をある広告会社から高値で借りており、広告会社への依存度が異常なまでに高かったというのです。また、広告を出稿することで業務量が増えれば、広告会社の関連会社から事務員を派遣し、経理部署を掌握する事によって弁護士事務所を完全に掌握したという事です。弁護士側もこのような自転車操業から抜け出そうと顧客を増やそうと奔走した様ですが、結局前述の広告会社の力を借りるという、悪循環にはまっていったという事らしいのです。こうして、多額の運営費用がかさんで不良債務となり、ついに過払金訴訟で振り込まれた預り金(合計4億円と報道されていました)を事務所運営費に使い込んだ結果、依頼者に返済が滞った事が端緒となり、事業停止、破産手続きとなりました。
調べによると、直近の案件依頼は,その広告会社が作成したホームページ経由がほとんどで、年間売上げの8割以上が広告会社に流れていたとの事です。(まさに操り人形状態ですね。怖!)なお、これら一連の事件の顛末は、ネットで「東京ミネルヴァ法律事務所」で検索すれば色々と検索できますが色々と闇の深い話でした。過払い金に強い弁護士事務所の誕生の理由を垣間見ることができるかと思います。
非弁提携は蜜の味だが…
これが、まさに非司提携、不当誘致の成れの果てと言えるでしょう。一見経営基盤が盤石(競争が緩そう)な弁護士ですら、この状況ですので、案件に瀕した司法書士事務所などは更に思う壺でしょう。この事例は、この広告会社以外の会社でも類似の状況がある様です。うかつに広告会社と提携し、不当誘致に手を出したことで、最初は営業せずとも案件が入るようになり、左うちわだったのでしょう。そのため言われるがままスタッフを増やして(多くは、その広告会社からスタッフが派遣されたようです)事務所規模を増やしていったのでしょうが、そのうち使途不明金や事務所維持費用が増大し、広告会社に運営方針にまで口を出されるようになり、慌てて弁護士が健全経営の為に支配権を取り戻そうとした途端、派遣されていた事務員を全員引き上げられ、案件も途絶え、多額の負債が発覚し万事休すというまさにドーピングの副作用の様な結果です。売り上げを伸ばす甘美な蜜だと思って口にしたモノは実は麻薬だったとは、法の専門家である弁護士でも見抜けなかったというのが皮肉な話です。
あの会社だったのか!
なぜ、今回みなオジがこの件を取り上げたかというと、みなオジに営業をかけてきた広告会社の一つが、東京ミネルヴァ法律事務所の倒産に関連すると言われるL社だったからです。営業が挨拶にきたとき、みなオジはこの集客サイトは司法書士規定に違反していないのかと質問したのですが、その時その営業担当は、想定問答の筆頭にあったかのように、流ちょうにこう答えていたのを覚えています。
「私共がいただくのは、「紹介料」ではなく、あくまでも「広告料」です。」と。
司法書士の中には、この言葉を鵜呑みにして、集客サイトへ掲載をした事務所もあるかもしれません。しかし、ここでいう「対価」が純粋な「広告料」(司法書士事務所が広告を出すこと自体は問題ないです。)であれば良いですが、ウェブサイトを通じて実質的に集客がされていれば、広告料とうたっていても、もはやそれは「紹介料」の性質を持った対価なのです。
ちなみに、ちょうど昨年末に、東京司法書士会から通達(注意喚起)があったので、こちらを転載します。
司法書士会の見解としては、1件当たりいくらの紹介料が生じていれば、それは明らかな不当誘致(やはり会則第95条違反)だという事ですね。広告に名を借りた非司提携(誘致行為)は、司法書士会として断固として排除していくという方針が見て伺えます。
余談
例の広告会社(と、その運営送客サイト)は現在どのようになっているのか気になって企業サイトを見に行ってみました。会社のホームページを見ると、一応ページは開くものの、ニュースの更新が1年以上滞っていました。
代表者名こそ変更はありませんでしたが、記載されていた本社住所は築30年を超える古いワンルームマンション。しかし不動産サイトを見ると賃貸状況は「空き部屋表示」でしたので、もはや入居が怪しいレベルです。
ホームページにはメイン事業の送客サイトの記載が残っていましたが、パンフレットに記載のあったURLを入力してもリンクが切れている状態でした。この様に見た感じ事業停止状態に伺えますが、唯一、関連会社が運営していた士業専門求人サイトは、受け皿会社と思われるS社の管理下に置かれ運営しています。まあ、事業内容に疑義があった送客サイト以外は問題が無いので、関連会社等に事業譲渡を行ったのかもしれませんね。