司法書士 法律

司法書士の決済立会業務とは

投稿日:2021年9月20日 更新日:

司法書士の一番の象徴的な業務とは何ですか?と聞かれたとき、みなオジはこの様に答えます。「不動産取引の決済立会業務」です、と。登記を独占業務とする司法書士が登記を行う際に行わなければならないのは、①登記申請人の実在、②金銭の授受が行われているか等、本当にその取引が適法に存在するのかというのを確認する事です。もちろん登記申請書を作成する事も重要な業務ですが、何千万、何億円と言う不動産がきちんと(つまり適法に)権利移転しているかどうかを確認した上で登記申請しなければ、最悪無権利者への移転登記を許してしまう事になります。

そこで司法書士は、必ず契約当事者、つまり買主・売主と一堂に会して様々な確認をする必要があるのです。この際に当事者の本人確認、その本人の意思の確認(と必要書類の確認)、その物件の確認、つまり「人、意思、モノの確認」を行うのです。

この立会は基本的にその登記申請の代理人たる司法書士が行う必要があります。買主・売主の他に不動産仲介業者も関与している為、不正(架空の人物、偽造の書面)等は滅多に起こりませんが、数年に一度、地面師(不動産詐欺師)による大規模な事件が報道されています。もちろん立ち会った司法書士も被害者なのですが、その立合いで適切な手続きや確認を怠っていた場合は、損害賠償責任を負わなければならないという非常に重大な責任を負わなければならないのです。扱う対象が不動産ですので損害額も数億、数十億単位となります。

司法書士賠償責任保険という保険がありますが、補償額が2~9億円のプランがあり、いかにリスクが高いかが分かるかと思います。ちなみに司法書士会では「1000万円までの全員加入賠償保険」に加入しており、所属の司法書士が事件に巻き込まれた場合は補填はされますが、1,000万円程度の保険ではまさに「焼け石に水」であり、上記の様な任意保険への加入は必須と言えるでしょう。

司法書士責任賠償保険パンフレット

決済立会いと言うのは月末に立て込むことが多く、不動産登記を扱う司法書士事務所が忙しいのは各月の下旬、特に売主の決算期や年度初めなどの転勤や子供の進学の時期は所員だけでは決済を回せないことが多くなります。決済事務所と言われるような不動産登記が中心の事務所では本職だけでは人手が足りず、以前は未登録の資格者や司法書士補助者などの事務員に決済立会を行わせていたようでしたが、書士会による取り締まりが厳しくなり司法書士への懲戒処分が頻発したことから、苦肉の策として手の空いている司法書士に決済業務を依頼する様になりました(いわゆる決済ヘルプ)。

みなオジも独立当初は結構知り合いの司法書士から決済の手伝いを依頼されることがありましたが、一件の依頼で3~5万円程度の報酬が支払われるので、極端の話自分自身の仕事が「ゼロ」であっても自分の食い扶持くらいは確保することができるのです。「司法書士は独立しても食えない」という人がいますが、この様な決済ヘルプが流れてくるので、(一等地に事務所を構え、多くの事務所員を抱えて固定費がかさんでいるという状態でない限り、経営が立ち行かないという事は無いのです。

決済の実際の流れ

ヘルプであっても司法書士が行う内容は基本的に同じです。司法書士は主に決裁場所である銀行の会議室に行き、買主と売主から必要書類を受け取り内容の確認を行います。申請書の作成などの事前準備は前日までに整っているので、基本的には決済自体はセレモニーだという司法書士もいますが、当日にしかできない確認(本人確認)もあるので油断はできません。プライバシーに触れない程度にコミュニケーションとり、買主に対しては「引越し先は現居からお近いのですね?」等と他愛のない話を振って本人確認をします。

実際、立ち合いのスタイルは先生によって違う様で、積極的にグイグイ仕切る司法書士もいますが、不動産の仲介業者に進行を任せてほとんど空気と化している司法書士も多いです。

みなオジはケースバイケースで、話好きそうな雰囲気であればそれなりに会話をするタイプです。子連れの若い夫婦だと決済の雰囲気は良いですね。みなオジも初めて不動産を購入した時は緊張したものです。法律専門職としての威厳も大切ですが、それと同時に現場の緊張を解きほぐしてくれるような穏やかな司法書士だと良いなという想いがあり、自分が決済に関わる際はできるだけその理想に近づける様に努めています。

クセ強めの不動産会社(イメージ)

ちなみにみなオジの決済立合い時のファッションは中庸と言うか存在感を消した格好をしています。あくまでは主役は買主売主と言う趣旨です。昔は堅苦しい格好(夏場でも長袖シャツにネクタイを締めて)決済場所に赴いたものですが、同席する不動産会社の社員がかなりカジュアル寄りなので、あまりコンサバな格好だと決済場所で浮いてしまうからです。そういえば、一昔前の「ザ☆不動産屋」のスーツスタイル(ピンストライプのクセが強いスーツ光沢のキツめなダブルのスーツ)は見なくなりましたね。

ちなみに司法書士徽章(バッジ)をつけるのが原則(執務の際は司法書士徽章着用が義務です)ですが、金融機関で司法書士と思しき人を見かけてもバッジを付けている人を見たことはあまりない様な…(ま、気のせいでしょう(笑))

(会員証の携行及び司法書士徽章の着用義務)
第112条 司法書士会員は、業務を行うときは、会員証を携行し、かつ、司法書士徽章を着用しなければならない。
司法書士会則

決済そのものは時間にして30分程で終了しますが、月末は融資実行が立て込んでいるので、出金伝票の処理が恐ろしいほど遅い場合もあり、当事者と1時間ほど会議室で待たされることもあります。売主口座に着金されたことを確認して晴れて所有権の移転が確定しますので、後は対抗要件たる登記申請を済ますべく管轄法務局へ行くという流れになります。場合によっては買主が実印忘れたり印鑑証明などの必要書類を忘れたりして、買主の家まで付いていくという地獄の様なトラブルもありますが、時給換算すると非常に割のいい業務ではないかと思います。

司法書士会からの通達の内容

ちなみに今年決済に関する通達「不動産売買の立会業務における執務の在り方について(注意喚起)」が司法書士会から発出されていたのをご存じでしょうか。要約すると『「決済ヘルプ」するのは良いけど、依頼主に対して責任を明確にする様に』という事のようです。もちろん双方プロなので、ヘルプでついた現場を疎かにするという本職はいないのですが、それが外形的にもきちんと表象できる様にするべきと言う事です。

同通達

具体的には同通達の(2)にある「犯罪収益移転防止法第2条、4条の取引時確認義務」の運用に関する厳格化という事になるのですが、①登記委任状に復代理人(決済ヘルプの司法書士)の氏名も記載する事と、②受任委任双方の司法書士当事者間で決済立会に関する委任状を取り交わす事で担保できるものと推認できます。(ちなみに、これらの書面は犯収法第6条で7年間保管)

犯収法と士業としての職責に基づく本人確認義務の相違

この問題について一歩踏み込むと、問題の所在は犯収法士業としての職責に基づく本人確認義務に帰着します。従来、不動産取引における本人確認は犯収法が整備される以前から法律専門職たる司法書士が責務として行ってきたものでありますが、同法が施行されてから本人確認義務については重なり合う部分とそうでない部分が生じたことから、双方の義務履行については見解が分かれておりました。

各法によって本人確認を行う目的が異なるので当然ではありますが、犯収法の本人確認は依頼者等の身元の確認で『実在性』と『同一性』の確認に限られるのですが、(決済時における)職責上の本人確認義務はそれらに加え『適格性』の判断も必要とされ、更には本人の意思あるいは依頼内容まで踏み込んだもので、内容が異なるのです。

この内容の差は、判断能力に疑義のある高齢者が当事者となる不動産取引で顕著になります。決済を中止に出来る権限を持つ司法書士ですが、本人の意思確認に確証が抱けない場合に、どこまで当該取引に踏み込むべきかというジレンマは、今年の年次制研修のテーマにもなっている極めて重要な問題です。

話が逸れましたが、いずれにせよ、決済の依頼者側は受任者(ヘルプの司法書士)に決済を丸投げするのではなく、直接的に責任をもって対応すべきと言う事です。また、売主/買主に対しても士業の信頼を損なわない様にきちんと説明を行う様、再確認がされたという事です。

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みなオジアバター

港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。