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社会貢献型後見人制度と司法書士

投稿日:2021年9月21日 更新日:

港区 高齢者虐待防止チラシ

司法書士の主要業務の一つに「後見業務」があります。後見業務とは認知症や知的・精神障害を有する人の財産管理や身上監護を行う業務です。従来は認知症となった高齢者の家族が後見人となって財産などの管理を行っていましたが、横領事件他の親族との反目・トラブルが生じたことから、徐々に司法書士等の専門職による後見件数が増えてきたという背景があります。ただし、専門職後見制度も完全ではなく、横領事件も依然として生じている事や、何よりも後見人への報酬が発生する為に、被後見人側の負担も多く、「民事信託」制度の活用など様々な制度を試行錯誤しながら模索してきたというのが実態です。

民事信託チラシ
発行元:司法書士会

後見業務に関する新たな取り組みの一つとして注目されているのが、今回のトピックで挙げる社会貢献型後見人です。社会貢献型後見人とは別名「市民後見人」ともいわれ、言い方は悪いですが、親族でもなく何の資格も有しない一介の市民が、後見業務を行うというものです。

正直、親族・血縁関係と言う特別な繋がりがあっても(余計なシガラミがあるからともいえますが)後見業務は難しく、また専門知識のある専門職後見人であっても対応に苦慮するケースのある後見業務ですので、(意欲・意識は高いものの)知識の少ない市民後見人がどのように活躍できるのかというのは少々疑問がありました。

実際、制度化されても市民後見が推進されているという話は聞いたことが無く、今後も定着しないのではないのかと考えていたのですが、先日、奈良で第1号の社会貢献型後見人が誕生したという報道を耳にしました。

県内初!奈良市に「市民後見人」第1号が誕生しました

奈良市では、誰もが住み慣れた地域で安心して生活を送ることができるよう、地域包括ケアシステム構築等の一環として、平成25年度より認知症等の方を支援する新たな担い手として「市民後見人」の養成に取り組んできました。このたび、平成26年2月開講の「第1回奈良市市民後見人養成講座」を修了した市民後見人候補者1名が、令和3年6月15日に、奈良家庭裁判所において奈良県で初めて「市民後見人」として選任されました。成年後見人制度に対応できる弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職の数には限りがあるため、今後も引き続き、市民後見人養成講座を実施し、益々増加するといわれている認知症等の方を支援できるよう、人材の育成に努めていきます。

引用元:PRTIMES 2021年6月30日
市民後見人候補となるための流れ(奈良市のケース)

奈良市では、平成25年度より「市民後見人」を養成していたようですが、ようやく令和3年に入り社会貢献型後見人が実現したというあたりに、後見人制度の難しさがあると思います。そもそも、専門職後見人も報酬の少なさや法律の壁で職責を果たせない状況があるので、まずはその辺りの問題解決を行う必要があるのではないかと思うのですが、ひとまず新たな動きが始まったと評価はできるのではないでしょうか。

後見制度の基本理念は以下の3点に集約されますが、大切なのは、被後見人本人の利益をきちんと確保できるかという事です。

①ノーマライゼーション
成年被後見人等でない人と等しく、成年被後見人等が基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと。
②自己決定権の尊重
障害者の権利に関する条約第12 条の趣旨に鑑み、成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重されるべきこと。
③身上の保護の重視
成年被後見人等の財産の管理のみならず身上の保護が適切に図られるべきこと。
成年後見制度の利用の促進について基本理念

後見業務というのは、多かれ少なかれ他人の家庭やプライベートに首を突っ込むことを意味し、また後見人が取った行為の正解不正解が明確でない事から、後見業務を行う上で、利害関係者間の板ばさみに合ったり、本人家族など周囲から有形無形の圧力などが掛かる事が往々にあります。

その為、後見人側も自身の揺るぎない理念・姿勢を周囲に示す必要がありますが、後見人側にある程度のバックボーン(年齢や資格、経歴等、他人に屈しないための何かしらのもの)が無いとその圧力に屈してしまう恐れがあるというのが、資格に基づかない半分ボランティアの様な立ち位置の社会貢献型後見人の弱みであると言えます。つまり老人福祉のプロである専門職後見人の社会福祉士が行った判断には反発が少なく、同じことを社会貢献型後見人が行った場合は、周囲からの反発や理解が得られないという事があるという事です。(特に知見の少ない市民後見人にはその傾向が顕著に出るのではないでしょうか)

港区の取組みは?

社会福祉法人 港区社会福祉協議会発行のチラシ

今回、港区に本拠を置く司法書士として、港区の後見に関する活動を紹介していきたいと思います。港区には港区社会福祉協議会という社会福祉法人があります。社会福祉法人とは社会福祉法第22条で定義される公益法人で障害者や高齢者などを対象とした各種福祉施設等の運営主体となる組織です。

司法書士が後見人に選任されるケースは2つあり、一つは家庭裁判所に登載された司法書士等の専門職後見人の名簿を基に選任されるパターンと、もう一つが地区推薦で依頼があるパターンがあります。港区は都内で成年後見制度の利用に関する体制が整備された地区との事で、平成30年12月に都内全市区町村に先駆けて港区で「成年後見制度利用促進基本計画」が策定されています。

「成年後見制度利用促進基本計画」の第2章「港区のおける制度利用に関連する高齢者の現状」を見てみましょう。

引用元:成年後見制度利用促進基本計画「港区の現状と課題」

2023年に港区の人口は28万人に対し、老年人口は4.6万人となる見込みです。港区と言えば六本木や赤坂などの商業エリアが目立つ派手なイメージが先行しますが、足元では着実に高齢化の波が迫っていると言えます。このことから、高齢者が安心して暮らすことのできる仕組みや基盤整備が必要であるという港区の決意がこの章で述べられているのです。

港区成年後見制度利用促進協議会

この基本計画内では、司法書士や弁護士等の専門職団体、地域包括支援センターなどの福祉団体及び障害者及びその家族等の当事者団体等を構成員とする「港区成年後見制度利用促進協議会」が設置されました。それに伴い港区内の成年後見人制度利用促進における中核機関が社協から港区に変更となりました。

司法書士の後見業務との関連で言うと、これまで社協経由で依頼のあった後見事件の依頼もこれに合わせて港区経由で来るようになったのです。(司法書士が後見業務を行うには、特定の研修を受けた上で(公社)成年後見センター・リーガルサポートに属していなければなりませんが、この変更を受けてリーガルサポートの港地区会では会員情報の名簿を港区に提供する事となりました。)

たかが窓口の変更と思われる方もいるかもしれませんが、従来の後見制度の問題点として、組織の縦割りによって本人をサポートする各機関の連携が図れていなかったことが挙げられます。その反省を踏まえ、今後は各情報を集約する本部的な役割を区(行政)が担う事によって、後見人、病院、老人福祉施設、金融機関、警察、家庭裁判所、家族が円滑かつ制約なく相互連携できる仕組みを構築しようという事ではないかと思われます。

そのことを示すように、成年後見制度利用促進基本計画の「基本施策」にも、以下の様な記載があります。

成年後見人等による財産管理の側面のみを重視するのではなく、認知症高齢者や障害者の意思をできるだけ丁寧にくみ取ってその生活を守り権利を擁護していく、意思決定支援や身上保護の側面も重視する必要があります。
生活課題への対応や複合的な課題を抱える世帯等、制度の利用が必要な人に、相談に応じて適切な情報提供ができる様、区及び港区社会福祉協議会、関連機関との連携が重要です。
このため、福祉サービスなどを提供する側の情報共有を始めとした連携を図り、適切にサービス提供つなげるとともに、利用者が分かりやすく、使いやすい制度の運用ができる事業展開を図ります。(以下略)
引用元:成年後見制度利用促進基本計画「基本施策」

つまり、港区と言う行政が窓口になる事で、情報共有がある程度柔軟に対応されることが示唆されている訳で、我々司法書士等の専門職後見人もこれらの情報を最大限活用し、本人の利益保護に資する後見業務を行う必要があるという事になります。

さいごに

港区の事例も参考にしながら、後見制度全体の問題点について語っていきましたが、今回の奈良のケースが全国的に普及して、後見制度全体が盛り上がればいいなと感じています。これは私見ですが、今回港区が成年後見制度利用促進協議会を組織して区が全体の取りまとめを行ったのを見習って、後見人側も専門職後見人・親族後見人・社会貢献型後見人が役割を分担して複数で後見業務に当たるというのもあっていいんじゃないかと考えます。例えば、親族後見人は身上監護を、そして社会貢献型後見人は財産管理を、そして専門職後見人は後見監督人的な立ち位置で全体を見る様な仕組みがあっても良いのではないでしょうか。責任の所在や1件あたりに係る負荷、ひいては人手不足と言った問題もありますが、分担する事で結果的に対応できる件数が増えるのではないでしょうか。

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。