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同一労働同一賃金は定着するか

投稿日:2020年11月22日 更新日:

今年に入って、新型コロナウィルスの騒動であまり注目されていませんが、働き方改革の最後の関門といえる「パートタイム・有期雇用労働法」が制定(中小企業については翌年の適用)されました。ニュースなどでは「同一労働同一賃金」というワードで統一されていますが、皆さんも概要はご存知かと思います。

表題は「同一労働同一賃金は定着するか」とあえて書きました。法律が制定されたのだから、定着せざるを得ないだろう、と思われる方がいるかと思いますが、個人的には大企業はともかく、中小企業では遵守されないのではないか、正確に言うと、律義に対応しようとすると企業の体力が持たない(と結果として、非正規労働者にもしわ寄せがくる)のではないかと思います。

みなオジも司法書士として会社の社長さんから色々質問されますが、どの経営者も頭を悩ませています。言葉を選ばずに言えば、よい脱法手段がないかと試行錯誤を繰り返している、そんな感じです。これは、経営者に責任があるというよりも、派遣社員という制度を作り出しておいて、その制度と二律背反する様な「同一労働同一賃金」という無茶ぶりをしてくる政府に問題があるように感じます。もちろん、みなオジも今の制度が良いとも思っていませんし、度が過ぎた格差社会は社会に様々な悪影響を与えるとも思っています。

また、みなオジは若い頃はジョブホッパーで、正社員から契約社員、派遣社員と様々な雇用形態で働いていました。ただし、みなオジは時間を確保するという目的で進んで派遣社員をしていた事もありましたし、年齢も若かった頃というのもあり正社員と賃金面ではそれほど大きな格差を感じてはいませんでした。そのため、派遣社員という制度にはそれ程悪い印象を持っておらず、むしろ個人的にはうまくメリットを利用させてもらったなと思いました。

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非正規雇用のデメリット

一方で、当時でも、有期雇用のデメリットを感じたこともありました。例えば、当時はまだ派遣社員の使い方が洗練されておらず、今よりも補助業務に限定させられていたので、担当させられる仕事が単純作業でスキルが身に付かなかった印象があります。人によってはそれをメリットと感じる人もいたかもしれませんが、会社側も所詮使い捨ての人材という意識があり、業務マニュアル以外の教育をは不要と考えていたことから、成長という概念はありませんでした。しかし、今問題になっている様な「正社員と同じ仕事をしているのに、待遇がかけ離れている」ということも少なかった様な気がします。少なくとも、みなオジの中では担当している業務レベル(責任)と対価のバランスはとれていましたね。

不安定さ

一番のデメリットは、これでしょう。有期雇用である以上どの職場にも終わりが来るわけで、常に頭の中にこの雇用関係がいつまで続くのかを浮かべながら仕事をしなければいけないというのは結構なストレスでしょう。ただでさえ、仕事はストレスがかかるものなのに、それに加えて、いつ首を切られるかわからないストレスがずっと続くというのは厳しいでしょう。また、人間関係もドライでいられるわけがなく、むしろ周囲から嫌われない事に神経をすり減らし、働かない正社員から便利屋の様な扱いをされるということも、納得いかないという思いを感じる事でしょう。それでいて、真っ先に雇用契約の更新が切られるという理不尽さも味わう事になるでしょう。

疎外感、空虚感

派遣社員や契約社員を経験する中で、みなオジが一番嫌だったのは、ここで頑張って働いても、何年後には自分はここにいないのだろうなという空虚感があったという点です。今の日本ではそのようなことはないと思いますが、正社員から名前で呼ばれない(「派遣さん、これやっといて」という感じ)というのは結構あった話で、自分も実際に言われた時はモヤモヤとしましたね。また、正社員と契約・派遣社員は雇用形態(働き方)の違いであって、決して身分や能力の上下ではないのですが、そこをはき違えた正社員から不必要に見下されたり、差別的な発言をされたりして、理不尽なヒエラルキーが生み出される結果となりました。だから、みなオジも人間関係についてはアフター5も気楽な人としか飲みにいかないとか、面倒な人(仕事)からは無理しないで逃げてしまえという割り切りができたので、この辺りはトレードオフの関係かな?と思いました。会社側も、「雇用形態毎に社員が分断される」という副次的効果に着目して、非正規社員を作ることで、正社員の給与や労働環境に対する不満をそらす手法としても使ったのは有名な話です。

給与水準の低さ

上述の様に、有期雇用は思ったより気楽な働き方ではありませんが、それにも関わらず給与水準では正社員に大きく水を開けられる結果となります。前述した通り、有期雇用労働者は若い時は相対的にはそれ程給与水準は低くありませんが、特殊技能を持った者以外の給与は20代も50代も同程度ですので、年齢が上がれば上がる程金銭的な不安定さも増すことになります。特に派遣社員の場合は有給休暇の制度を使う事はできますが、基本給という概念がなく日給を積み重ねる報酬形態となるので、お盆や年末年始により勤務日が少ない月については、出社可能日が少なくなって給与が激減してしまう結果となるのです。普通のサラリーマンは連休が続くと嬉しいものですが、派遣社員時代のみなオジは給料が下がるのモヤモヤとした気分で休暇を過ごしがちでした。

福利厚生やボーナス・退職金が無い(もしくは正社員に比べ少ない)という区別については、「合理的理由」という判断で徐々に判例が出揃う事になりますが、果たしてどのようになるのでしょうか?実現は難しいとは思いますが、有期雇用の社員の報酬に契約解除されるリスクを上乗せして正社員の報酬より高く設定するという給与体系が根付けば、雇用の流動化が促進され有期雇用社員と正社員(企業)間の対立や同一労働同一賃金の問題も多少は解消すると個人的には思います。

継続したキャリアが形成されない

表面的に表れにくいデメリットとして挙げなければならないのは、働き方の特性上キャリアが細切れになりがちという事ですね。キャリアが細切れになることで問題となることは何でしょうか。1つは正社員では当然に与えられる社員の年次教育の対象外になるという事、2つ目は結果的に就職・退職を繰り返すために職歴がかさむことです。社員の年次教育とはコンプライアンス研修ですとか、新入社員・リーダー・管理職研修といった、会社員として昇進した際など節目節目で行われる研修を指します。職種が同じ、必要スキルが同じであれば、職歴が多いこと自体は問題ないのですが、残念ながら日本(企業)では職歴の多さは評価を下げる結果になります。そして、派遣スパイラルへと入ります。もちろん、これについては、価値観の変化で今後変わるかもしれないので、絶対的なデメリットではありませんし、外資系企業を志向する労働者にとっては問題ありませんが、一般的には不利な点といえるでしょう。

職歴が少ないほど真面目、なのか?

個人的には、一つの職場で長く務めることが、忍耐力があるとか真面目であるという評価はそろそろ転換すべき時期ではないかと思います。一つの職場が長いという事は逆に言えば、一つの会社に染まり切っていることから他社風土への適応能力がない可能性が高く、また属社的な(その会社だけで役に立つ)スキルだけが高いだけかもしれません。また、「忍耐力」と「茹でガエル」は紙一重といえ、一社に依存するがあまり、自分の危機的状況を把握できずにただただ社外へ飛び出せなかった行動力のない社員なのかもしれません。そもそも、ビジネススピードが速い現在では、10年、いやもっと早いスパンで産業構造の変化が生じ、景気の良かった会社が業績悪化し、企業買収されたり、最悪倒産することだってあり得ます。この様な経済情勢で、盲目的に一つの会社に献身するという事は、まさに「茹でガエル」的といえるのではないかと思います。

この様に一社依存の是非はあるものの、漫然と派遣社員・契約社員を続けて、職歴を徒に増やしていると、今の日本の雇用環境においては取り返しのつかない状況になってしまうのです。つまり、正社員になりたいと思った時には、年齢制限などで時すでに遅しとなる可能性が高くなります。実際に、日本企業では30代で転職回数が4回以上あると、書類通過もままならない結果となります。終身雇用の広がりに起因する日本企業における人材の流動性の低さは高度成長期では人材確保や愛社精神の醸成に有効でしたが、近年では皮肉にも成長を妨げる要因となっている訳です。今後、正社員でも解雇が容易になれば、雇用流動性が高まり人材の再配置がスムースに行われることができ、不況からの回復を早めるきっかけとなり、これまで、余剰人員から解放された企業もその分社員への分配を増やすことができるのではないでしょうか。

法改正に翻弄される

リーマンショックの際の「派遣切り」を契機に、派遣制度が見直されたのは皆さんご存知の通りです。制度の見直しは一面的に見れば、派遣社員の身分の安定化に繋がるものですが、制度を変えることで皮肉にも有期雇用労働者の労働環境が激変することになりました。実際に派遣社員については、労働者派遣法の改正後は人で3年縛りが出来、原則3年ごとに職場を変わらざるを得ない状況になりました。制度の建付上は派遣社員として3年後に直接雇用または派遣会社での雇用継続される権利を得たというメリットもありますが、継続雇用したくなければ会社側は更新をしなければいい訳で、結果として同じ職場で3年以上働けず、むしろ不安定となった弊害がメリットを上回る結果となり、労働者側にとっては改悪以外の何物でもありませんでした。ちなみに、3年経過前にクーリング期間を設けて期間をリセットすることもできますが、そんなことをしてまで一つの会社に在籍する意味は薄いのではないでしょうか。

契約社員についても労働契約法の改正で5年ルールが生じましたが、これも同様に5年経過前の契約満了が蔓延する結果となりました。ちなみに5年経過時に有期雇用から無期雇用に条件変更することができても、無期雇用は正社員化ではありません。つまり、契約期間以外の内容・条件は変更されないので、責任ある仕事がいつまで経っても回されず、給料がそのままなどの弊害もあります。もちろん、無期雇用という恩恵を活用しその後時間をかけて実績を積み正社員化を目指すことは可能なので、有期雇用時代よりは腰を据えて会社側にアピールできることは、メリットなのではないでしょうか。 

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非正規雇用のメリット

デメリットを見ると、胸を張ってこれがメリットだといえる部分は少なくなってしまいますが、逆に言えばそのデメリットを理解した上で働けばそのデメリットが顕在化することはないといえるでしょう。

時間を確保したい(他にやりたいことがある)

みなオジはこのパターンでした。正社員ですと出張や休日出勤、残業など正社員では会社の為に費やす期間、もしくは立場が上がれば休日でも会社売上や経営組織さらにはトラブルに時間を費やさなくてはいけない場合があります。これは働くという意味ではなく、いつも頭が会社のことで占められる状態という事を指します。この様な事にとらわれずに、自分のやりたい夢や趣味があるのであれば派遣社員などは非常に時間の融通が付きやすいと言えます。

ちなみに、みなオジはかなえたい将来の為に自由な時間を求めて非正規社員を選んだつもりだったのですが、時間を確保したいなら実は大企業の正社員が一番融通が利くのではと、一周キャリアを回してみて改めて感じました。実際、自分がこれまで経験した雇用形態で一番時間にゆとりがあったのは、正社員時代だったからです。もちろん新卒で正社員として入社した会社は、バカみたいに拘束される業態でしたので、正社員=長時間労働というイメージが独り歩きしてしまい、その結果、資格試験の勉強時間を確保するために正社員以外の雇用形態を選んでしてしまった事が、みなオジの迷走の始まりだったと言えます。実際、派遣社員時代は確かに時間にゆとりがありましたが、逆に給与が少なかったことから残業を申し出て生活費を稼がなくてはいけない事もありました。このことからも、拘束時間は雇用形態とは相関性は低いと考えを改める様になりました。あくまでも時間の融通については、一般論として聞き流してもらって構いません。

そもそも、安定的雇用を必要としない

正社員として働いている人には理解しにくいかもしれませんが、働く人が必ずしも正社員で働きたい人という訳ではありません。様々な理由で生活拠点を固定しなければならない人にとっては、正社員として働くにはリスクがありますし、恵まれた資産状況の為に好きな時にだけ働きたいという事が許される人もいます。羨ましいことですが、生活のために働く必要が無い人は日本にはごまんといます。そういう人にとっては、有期雇用は非常に適した働き方と言えるのではないでしょうか。

絶対的(陳腐化しない)なスキルを持っている

もし、あなたが看護師や翻訳(しかも特定業界に通じている)スキルを有しているのであれば、派遣先に困ることは少ないでしょう。自身のスキルを武器に自分により適した環境と条件の職場を渡り歩くことができると思います。確かにその通りですが、よりそのスキルを高く売りたいのであれば、派遣社員に固執する必要はなく、業務委託や請負などの他の働き方も模索すべきでしょう。

大手企業や勢いのある企業で働くチャンス

正社員としては、入社のハードルが高かったとしても、派遣社員や契約社員であれば入社の可能性は高まります。うまく入社することができれば、実績を積んで正社員雇用を狙うという王道的なものから、やや変則的ですが社内結婚狙いというのも戦略としてはアリでしょう。もちろん、自分のスキルに絶対の自信が無ければ難しいと言えますけど。

色々な企業を経験することによる、適応力、多面的な視点を醸成

職歴の多さのデメリットをうまく転換させる手法ですが、柔軟性をアピールすることも可能と思います。また色々な会社を渡り歩くことで、自分の適性や本当にやってみたいことを探すきっかけにもなるでしょう。ただし、派遣社員という補助的仕事を通じて、その業界の醍醐味をどれだけ知ることができるのかという疑問は残りますが。

最後に

有期雇用を経験していると、色々な考え方の仲間がいて面白かったのですね。派遣社員時代には、正社員よりも能力の高い人もいましたし、独立資金を稼ぐために自ら期限を切って働く人もいました。中には向上心も無く漫然と今の状況に甘んじている人もいましたし、そもそも社会不適合者の様な人も多かったです。意志の弱い人ですと、このような母集団に属していると下のレベルに流されてしまう事も多いかと思いますので、自分の目標とか、キャリアパスをしっかり持って働く必要があります。上述の通り、みなオジは当初、資格取得などの自己研鑽に充てる時間を確保する為に派遣・契約社員として働く道を選んでいたにもかかわらず、その当時行っていた仕事にやりがいを感じたことから、腰を据えて取り組みたいと正社員に転換したのですが、皮肉にも正社員に転換した後の方が、時間管理や効率的な業務を心掛ける様になって(つまり、無駄な残業をしなくなって)、資格取得が進んだという皮肉な一面がありました。

正社員は、もはや安泰ではない

最後に付け加えますが、法改正によって翻弄されうるのは有期雇用者だけではなく、正社員も含めた全ての労働者であるという事は忘れてはいけないでしょう。身分保障がされている正社員だからこれまで制度が変わっても明らかな不利益を感じなかっただけであり、正社員としての聖域が失われつつある今、正社員という身分にあぐらをかいていては会社を追われる憂き目を見るかもしれません。今回の同一労働同一賃金という法改正自体、正社員から非正規社員へ人件費の分配割合が移転するということを意味するのですから、正社員は解雇されないという権利も喪失しないとは言い切れなくなるでしょう。学者の中には正社員の特権を無くすことが日本経済の復権の近道という考えもある事から、今回はその第一歩という事で、まさに大きな外堀が埋められたといえるでしょう。これまで安泰だった正社員といえども、スキルアップなどの自衛手段をとらなければ、近い将来、解雇におびえる日々を過ごすことになるでしょう。

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。