皆さんは景品表示法をご存じでしょうか?
司法書士的にはそれ程親しみのある法律ではないのですが、会社の宣伝部や法務部門で働いていたり、マスコミ関連で働いている人にとっては必須の法律になります。
消費者保護を目的とする法律なので、士業の法律相談を開くと一定数は景表法に関する問い合わせが来ます。最近はECサイトを媒介とした被害報告もありますし、立法府と違法業者のイタチごっこの感じも見受けられます。皆さんもAmazonで凄い割引をしている商品があって思わずそれをポチした後、よく見たら他の商品と大して変わらなかったとか、むしろ高い等経験はありませんか?景表法的にはこの様な2重価格表示も景表法に抵触するものです。
という訳で今回は景表法の基本的な情報を確認したいと思います。
目次
法の目的
この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。 |
景表法の正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」といい、目的にある様に景品表示法には、消費者を誤認させる不当な広告表示を禁止する不当表示規制と過大な景品提供を禁じる景品規制の2つから構成されています。
不当表示規定
不当表示規制については第5条で規定され、「優良誤認表示」「有利誤認表示」「その他誤認させるおそれがある表示」について定められています。「二重価格表示」や「おとり広告」は皆さんも1度くらいは聞いたことがあるかも知れませんね。
具体例を挙げて説明した方が分かりやすいと思います。
「優良誤認表示」については外国産の牛肉を国内ブランド牛等と表示する「産地偽装問題」が有名で、主に商品の品質・規格について、実際のものよりも著しく優良であるように見せかけて集客するものです。
一方「有利誤認表示」は、店舗で1年中行われてる「閉店セール」でしょう。在庫処分価格で格安販売する旨謳っているものですが、1年後も閉店セールは継続していて、結局1年中その価格で売られているのです。この様な二重価格による販売は消費者の誤認を誘発するものとして規制の対象となっています。
景品規定
景品規定とはいわゆる商品購入に紐づくおまけ(懸賞)の事です。一見、おまけを付ける事と消費者保護は関係ない様に思われますが、規制の異議としては行き過ぎたおまけを付ける事で、消費者が商品そのもの性能以外で選択してしまい、結果的に商品やサービスの品質が低下してしまう事を防止する意味合いがあります。
景品は大きく、応募が商品サービスの購入関係なく行える「オープン懸賞」と商品購入者やサービス利用者のみが応募できる「クローズド懸賞」に分けられます。オープン懸賞は上記に記載した懸念が生じない事から、公序良俗に反したりその他の法令に違反しない限り制限は設けられていません。
クローズド懸賞は①「一般懸賞」、②「共同懸賞」、③「総付(ベタ付け)景品」の3つに分けられており、公取の告示(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限)で懸賞品の価格の上限等が定められています。
①一般懸賞については、(例えが古くて恐縮ですが)ガリガリ君の「アタリが出たらもう1本!」と言うのがベタな例です。その他、抽選やじゃんけんで勝ったらと言った条件付けがなされるものは一般懸賞です。また②共同懸賞と言うのは①のうち、商店街など複数店舗が共同で実施するものです。ガラポンで「商店街共通商品券」や「旅行」が当たるやつです。③は「先着100名様」や「購入者全員」に○○プレゼントという懸賞です。
紛らわしいのはお菓子のおまけ(ビックリマンチョコとかプロ野球チップス)のシールやカードについては、以前は総付景品と言う扱いでしたが、2005年に公取が見解を変更しており、何が出るか分からない物なので総付景品ではなく一般懸賞品という整理になっています。
総付景品は取引価格が1,000円未満の場合200円(1,000円以上の場合、取引価格の10分の1)までが景品価格の上限となっているので、ビックリマンシールが総付景品とされていた時代は規制内で収まっていましたが、一般懸賞では景品の総額の上限は「懸賞を提供する取引による売上予定総額の2%」という制限の為、お菓子の値上げしなければならなかったという都市伝説(?)があるのです。ビックリマンシールが子供の射幸心を煽るという報道がされたことから社会問題化(シールが目当てでお菓子を食べずに捨てる子供もいたらしい。)にして行政が動いたからなのかな、と思います(陰謀論)。他にもシールのグレードを均一化する等の改悪もあり、ビックリマンシールのブームは儚く終わったのです。
ちなみに食玩ブームで缶コーヒーに結構高そうなミニカーが付いていて一時期みなオジも集めていましたが、これは半透明のプラスチックケースに入っており、何が入っているか分かるので懸賞品ではなく総付景品扱いとなります。
不動産取引の懸賞キャンペーン
話の脱線ついでに、マンション好きのみなオジ的には、マンションの懸賞についても触れない訳にはいきません。今はそれ程でもないかも知れませんが、リーマンショック後不動産価格が下がっても誰もマンションを購入しないという今では考えられない時代が10年前くらいにありました。
この時、よく販売促進の一環で色々な来場キャンぺーや成約キャンペーンを行っていましたが、不動産の場合は公取が個別に告示を出しています。これは、不動産取引では通常何千万単位の取引となる為、景品の最高額を抑える必要があったからです。その他にも新聞勧誘などの独自の規制が告示されているようです。
不動産業における一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限不動産の売買、交換若しくは賃貸又は不動産の売買、交換若しくは賃貸の代理若しくは媒介を業とする者は、一般消費者に対し、次に掲げる範囲を超えて景品類を提供してはならない。 一 懸賞により提供する景品類にあっては、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和五十二年公正取引委員会告示第三号)の範囲 二 懸賞によらないで提供する景品類(つまり総付景品)にあっては、景品類の提供に係る取引の価額の十分の一又は百万円のいずれか低い金額の範囲 |
不動産業における一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限
今でも成約キャンペーンとして「100万円分のオプションポイントを成約者先着5名にプレゼント」を見かけますね。また、建築条件付土地については土地部分は不動産の特例(上記)が該当しますが、建物部分は工事請負契約なので総付景品の場合は一般規程(取引価格の10分の2まで)が該当するという考え方になり、1000万円の建築工事請負契約の場合は100万円の景品ではなく200万円まで提供可能です。
不動産の広告表記に関する規定
また、不動産広告・表記周りに関しては、個別に法やガイドラインが定められていて、主に「宅建業法」に定められる規制と不動産公正取引協議会連合会が定めた「不動産の表示に関する公正競争規約」があります。
景表法第31条で事業者又は事業者団体は業種ごとに協定又は規約を設定できると定められていて、「不動産の表示に関する公正競争規約」は不動産業界の自主規制という訳です。不動産の表示に関する公正競争規約および表示規約施行規則は2022年9月に改正があり、後日取り扱うと思いますので、ここでは紹介程度に定めておきましょう。
宅建業法 | ・無免許事業等の禁止(法第12条) ・名義貸しの禁止(法第13条) ・誇大広告等の禁止(法第32条) ・広告の開始時期の制限(法第33条) ・取引態様の明示(法第34条) など、許認可業である不動産業者が遵守すべき基本的なルールを定めたもの。 |
公正競争規約 | ・物件の内容・取引条件等に係る表示基準(規約第15条、表示規約施行規則) ※徒歩時間は80メートルにつき1分として表示する等 ・特定用語の使用基準(規約第18条) ※「ナンバーワン」など最上級表記や「バーゲンセール」といった著しく安いという印象を与える用語の合理的理由の無い表記の規制 ・物件の名称の使用基準(規約第19条) ・不当な二重価格表示(規約第20条、規則第12条) ・おとり広告(規約第21条) ・不当な比較広告(規約第22条) など、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公 正な競争を確保することを目的としたもの。 |
また不動産広告といえば、捨て看板や電柱広告といったイメージが今でもありますが、各自治体の屋外広告物条例違反ですので、この様な違法広告を出すコンプラ意識の欠如した不動産業者とは関わらないようにしましょう。
罰則規定
事業者が不当表示規制と景品規制に違反した際は以下のような罰則が適用されます。
①措置命令
不当表示あるいは過大な景品の提供をしている事業者に対し、これの行為を是正するため事実・謝罪文をHP等で掲載し、違法な表記取下げを命じ、社内で再発防止を徹底する等の是正を命じる措置です。なお、消費者庁は措置命令に際して、優良誤認表示等に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該措置命令を発した事業者に対して、期間を定めて(15日以内)当該表示の裏付けとなる資料の提出を求めることができます。
是正措置を受けた事業者が再発防止策などを策定しない等、これに従わない場合は二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金(第36条)が科せられます。(法人等は三億円以下の罰金刑を併科(第38条))
②課徴金
課徴金制度(第8条)は事業者が違法広告により得た利益を没収する意味合いをもつ行政処分で、優良誤認表示や有利誤認表示を行った場合、当該商品、サービスの売上額3年分の3%の納付を命じられます。
課徴金算定により課徴金の額が150万円未満の場合は対象外で、課徴金対象行為に該当する事実の報告を事業者自ら行い、購入者への返金措置の実施があった際は課徴金の減額が認められます。また、不当表示につき、故意・重過失がない場合は課徴金納付命令の対象とはなりません。
③適格消費者団体の差止請求権
これは正確には罰則ではありませんが、是正措置の一環として記載します。優良誤認表示や有利誤認表示を行った場合、国の認定(消費者契約法第13条)を受けた民間の消費者団体が消費者被害の防止・救済を目的として事業者に対して違法広告を停止する旨請求できる制度です(第30条)。
さいごに
景表法は以前ブログ内で紹介した特商法とも関連があり、セットで理解する事で横断的に理解する事ができる事から合わせて読んでみてください。最近ではインターネット通販で健康食品の「1回お試し500円」等と記載されていても、実際は2回目以降も継続が必須となっていたり、購入のハードルを下げる様な商品アピールで契約をさせる一方で解約に複雑な条件を付し、販売時にその記載を分かりにくく掲載しているという悪質なケースがあります。
関連過去ブログ:特定商取引法とは?は→コチラ
消費者は事業者に比べ情報量が少なく、トラブル時の対応力に開きが生じてしまいますが、上記で記載した適格消費者団体を頼るなど、自分の身は自分で守れるように是非一読して知識を付けてください。また景表法自体は条文の少ない法律ですが、消費者庁が出しているガイドラインには色々なケースの違反事例が載っていますので、こちらも併せてチェックしてみましょう。