とある賃貸借契約書の遅延損害金の記載欄に「日歩(ひぶ)」表記のものがありました。
通常、遅損金の定めは年○○%という表記が通常ですが、その契約書には「日歩6銭」と記載されていました。
これは100円に対して1日あたり6銭(0.06円)の利息が発生するという事で、これに365日を掛ける事で21.9円となります。つまり日歩6銭は年利換算で21.9%という事になります。
計算機が無かった時代は利息計算を簡単にするため、日歩が使われていたという経緯がありました。そのため、最近の契約書にはあまり見られないのですが、歴史の長い不動産会社の契約書にはいまだに使われていたりします。
目次
利息14.6%の謎
ちなみに、遅損金の多くは「14.6%」と設定されている事が多いですが、その理由はご存じでしょうか。それは消費者契約法第9条2号を根拠としています。そこでは事業者と消費者の間の「金銭消費貸借以外の契約」で遅損金の利率を定める場合、その上限は14.6%とされています(これを超える部分は無効)。
ちなみに下記表では9条1号は省略しましたが、レンタルDVDの延滞料金で問題になる条文で、こちらの方でも一つトピックを立ててお話したい内容ですが、基本的にレンタルという業態が廃れてきているのでそこそこにお伝えすると、この条文を盾に延滞者は延滞金全額の支払いは逃れる可能性が高いと言えます(ケースによります)。ケースバイケースなので、間違っても実際に長期延滞を試してみよう等とは思わないで下さい。(最悪の場合、逆に詐欺罪で訴えられる可能性も…)
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効) 第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。 一 省略 二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分 |
ただし、この14.6%という上限は金銭消費貸借契約には不適用です。(消費者契約法9条は上述の様な家賃滞納や保証会社の求償債権、クレジットカードの利用額の未払に対する遅延損害金や違約金の定めを規定したものです。)
金銭消費貸借契約上の債務を履行しない場合の遅延損害金の利率は、利息制限法4条により利息制限法1条に定める上限利率の1.46倍になります。
第四条 金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。 2 前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。 |
この上限にはさらに例外があり、利息制限法7条1項で、金融業者による貸付けの場合には上限20%と定められています。
借入総額 | 10万円未満 | 10万~100万円 | 100万円以上 |
---|---|---|---|
利息(利息制限法第1条) | 20% | 18% | 15% |
遅延損害金(同4条) | 29.2%(日歩8銭) | 26.28%(日歩7.2銭) | 21.9%(日歩6銭) |
高金利を定めた金銭消費貸借契約
ちなみに貸金業法第42条では、貸金業者は登録業者・無登録業者を問わず年109.5%(日歩表記だと30銭)を超える利息での貸付契約を行った場合、当該契約は無効と定められています。以前、トイチ(10日で1割の利息)金融業者が跋扈していましたが、年利に換算すると365%となり完全に無効な契約となります。
なお貸金業法上、高金利を定めた金銭消費貸借契約について貸主は超過利息分の返還義務を負い、貸金業法違反として行政処分を受け、更に出資法第5条で刑事罰(年20%を超える金利:5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金(併科)、年109.5%を超える金利:10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金(併科))の対象となります。
下の表は過払い問題の際に良く出てきた金利の図表です。2007年6月過払金返還を求める裁判でグレーゾーン金利を違法とした最高裁判決を受けて、関連法令が改正され現在に至っています。
上記の通り、法整備により違法な貸し付けは減少しましたが、個人間融資(上限金利は109.5%で一応合法)を隠れ蓑に闇金が違法な貸金を行っているので、その様なネットの勧誘やチラシに引き込まれないように注意が必要です。
この様な条文の建付けにより、冒頭に記載した遅損金「日歩6銭」の賃貸借契約書は法的に問題ないという事になります。
遅延損害金<<<<<<信用
今日は普段見慣れない「日歩表記」をきっかけにお金の貸し借りや支払いの懈怠に関する条文をダラダラと記載しましたが、元金が少なく、大した利息にならないからと放置するのは絶対にやめましょう。金額的には大した請求をされなくても、これらの債務の未払はあなたの信用を低下させることになり、あなたの信用情報に延滞事故が記録されると、大きなペナルティを受ける可能性があるからです。
小さなところではクレジットカードが作れない・使えない、携帯電話の契約が出来なくなる、大きなところでは住宅ローンが組めないといった不利益が生じます。これらは信用情報機関があなたの延滞履歴を含む信用情報を管理していて、役務を提供する事業者はあなたと契約する際、当該機関に対してあなたの信用情報について照会を掛けるからです。
信用情報を扱う機関は大きく3つあり、設立母体によって利用(照会)する会社が異なりますが、信用情報はこの3者間のシステム上で共有されているので、基本的にどこかで延滞事故や自己破産などを起こすと、どの企業の照会でもブラックリストとして挙がってきてしまいます。
株式会社日本信用情報機構(JICC) | 信販会社、流通系・銀行系・メーカー系クレジット会社、 百貨店、専門店会、流通系クレジット会社、 銀行系クレジット会社、家電メーカー系クレジット会社、 自動車メーカー系クレジット会社、保険会社、保証会社、 銀行、消費者金融会社、携帯電話会社 |
株式会社シー・アイ・シー(CIC) | 銀行、信用組合、信用金庫、保証会社、銀行業を営む会社等 |
全国銀行個人信用情報センター(KSC) | 消費者金融会社、流通系・銀行系・メーカー系クレジット会社 信販会社、金融機関、保証会社、リース会社 |
ちなみにCIC等の信用情報機関に対して自分の信用情報を有料で確認する事ができます。保有するクレジットカードの支払状況やローンの残高も確認できるので、住宅の購入といった大きな買い物を控えている人は延滞事故を起こしていなくても事前に確認する価値はあるでしょう。
具体的には住宅ローンの審査が通らない理由として「他での借入れが多い」ため返済比率で引っかかっているというケースがあります。例えばマイカーローンがネックの場合、その残債を一括で弁済する事でローンが通るという事もあるのです。
なお、貸金業法には「貸金業者から借入れる金額は、年収の3分の1まで」という「総量規制」という債務者を保護する規定(貸金業法第13条の2)がありますが、住宅ローンや有価証券を担保とする貸付けについては当該規定は除外となります。
また銀行は貸金業法の対象外(銀行法)とされていますが、業界ルールを策定し、自主的に総量規制内に収まる融資を行っています。
さいごに
民法改正で成年が満18歳と変更されたことから、社会経験の少ない成人がクレジットカードの作成や携帯電話などの契約に直面する事が多くなり、それまで未成年取消権の行使等で守られてきた年齢の人が不利益を被るケースが予想されます。
本ブログではこういったお金に関する基本的な知識も定期的にしていこうと思います。