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ミニマム事業承継

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最近、司法書士の業務とは関係ないのですが、個人的に事業承継に興味を持っています。事業を営む団塊の世代が引退を考える時期であり、後継者不足で会社を畳む所が今後も増える事から、優秀な技術やノウハウを持っている会社が無くなってしまうのは国の損失と言えることから、その損失を最小限に防ぐ術として事業承継への理解が重要だと思ったのがきっかけです。機会があれば当事者・アドバイザー問わず関わってみたいです。

上場会社(公開会社)であれば株式の流動性もあるので、譲渡(買い手を見つけること自体)はそれ程難しくないかもしれません。とはいえ、規模が大きければ利害関係人も多くなりますし、従業員の処遇を含むPMIでも紛糾するので難易度と掛かるコストや期間はSランクの難易度で、素人だけで手に負える手続きではありません。(法律専門家である司法書士もM&Aに関わる範囲はごく一部です。)実際にM&A関連の契約条項一つとっても、あまりなじみのない用語が目白押しです。

・アドバイザリー契約書(・秘密保持契約)
スタンドスティル条項
・基本合意書(M&A契約書)
ロックアップ条項、フィデュシャリーアウト条項、取引保護条項
・株式譲渡契約書(SPA)
アーンアウト条項、キーマン条項、チェンジオブコントロール(COC)条項、価格調整条項
・株主間契約書
ベスティング条項
契約条項どれだけ知ってますか?
M&Aに関連する契約における法律用語(主に条項)

今回私が取り上げるのは、その様な上場企業のいわゆるM&Aではなく、お父さんが一人で経営している様な最少単位の会社をターゲットとしたものです。

今回はみなオジが大好きなサラリーマンの副業を絡めて、お遊びで事業承継ストーリー(空想)を記載してみました。

今回の舞台(登場人物)

主人公 継雄(45)…大学進学時に上京して、卒業後は大手メーカーに勤めるサラリーマン。

    尾弥次(70)…40歳で脱サラして「まちの電気屋さん」を営む社長。継雄の父。会社はそこそ
           こに儲かっているが、体力的な衰えもありそろそろ引退を考えている。
           腕は確かだが会社を大きくすることにははほとんど興味を持っていない。
           従業員も雇っていないので、いずれ会社は解散させて廃業しようと思っている

継雄は大手メーカーに勤めているが、いわゆる出世コースではなく、定年後のリアルも徐々に見えてきた哀愁漂うサラリーマンです。ご多聞に漏れず、不景気の影響で会社の業績も振るわず昇給カーブも頭打ちで危機感を感じているが、これといった対策を打てずにいるといった感じです。

ちょうどそんな時、家族と年に1度の帰省で、子供の時から通っていた近所の床屋に散髪に行った際に、床屋の店長(父の同級生)から「この床屋は今年いっぱいで閉める」と聞いたことで、ふと自分の父親は会社をどうするつもりなのかが気になった事から、晩酌の席で父に聞いてみる事に…

こういう家庭は結構あるのではないでしょうか?継雄はデスクワークしかしたことのないサラリーマンで、畑違いの父親の事業を継ぐ意思はありませんでしたが、一方で父が30年前に作った会社をそのまま清算してしまうのはもったいないという気持ちも持っています。

また、継雄には兄弟もいるので、会社を残したまま尾弥次が死んでしまうと、手続的にも面倒な事になるのではないかとも考えています。

今回は実際に父の会社を承継するかどうかわからない(そもそも、継雄は会社を何に利用するか決めておらずメリットがない)ですが、仮に父の会社を存続させようと思った場合、どのような手順で承継を検討していくかを説明します。

父親の意向を確認する(話し合い)

まずは尾弥次が今後会社をどうするつもりかを確認する必要があります。父としては、会社を畳むのは半分仕方ないと思っていたので、息子の急な申し出に何かしらの違和感を受ける事は必至でしょう。ですので、継雄の方からそれとなく「仕事については今後どのようにするつもりなのか」を確認する必要があるでしょう。想定される回答は大体以下の通りでしょう。

・何も考えていない
・買い手がいれば売却する
・解散し清算手続き
・子供たちが継ぎたいなら、継がせても良い

継雄の意向としては、とりあえず法人としての使い道はないが、専業主婦をしている妻(結婚前に設計事務所に勤務)が、最近業務委託でCADオペの仕事を受託しているので、軌道に乗ったら父の法人を使っても容易のではと漠然と考えている程度です。ですので他に法人の承継先があれば、そちらを優先して問題ないとも考えています。

いずれにしても、会社が残ったまま相続が発生して、相続手続きと並行して会社の後始末(在庫処分、債権・債務の清算、解散手続)も大変ですので、尾弥次が何も考えていないような場合は、その辺りを意識させる事も意義の一つです。

親子間でこういった話をするのは中々しんどいとは思いますが、たまの帰省時にはこういう家族会議があっても良いのではないかと思います。(親戚の葬式があった時は、特に良いタイミングと言えるかも知れません。)

思い切って継雄が会社の状況について確認したこともあり、継雄は会社の状況をおおよそ把握することができました。尾弥次が事業拡大をする気も無かったことで、会社は無借金経営で無駄な在庫も無く、将来的に発生する費用もない事がわかり、とりあえずは一安心です。(逆に資産らしい資産も軽トラックと仕入れの為の現預金程度でしたが。)

家電製品の修理の腕は確かで職人肌の尾弥次は、会社経営には無頓着でしたが、息子と上記の様な話をして、こちらも急に自分の相続を意識し始めます。実際、会社をたたむにも費用が発生するので、会社を残したまま自分が死んでしまうのも無責任だという気持ちも芽生えました。

加えて、自分の名字を冠した歴史ある法人「中山電器販売(株)」(創業は尾弥次の先代から)を自分の代で潰してしまうのももったいないなぁという考えも起こります。当初は継雄が法人を承継しても良い(しかしサラリーマンを辞めるつもりはない)という申し出を訝しげに感じていましたが、将来的な使い道はあるという話を聞き、「じゃあ、どうやって会社を引き取るんだ?」という話に入っていくのです。

スキーム

上記の家族会議を経て、やや前向きな考えになった尾弥次ですが、その後の手続きなどさっぱり分かりません。社長歴は30年もあるベテラン経営者ですが、経理周りは顧問税理士に丸投げで、会社の経営などこれっぽっちも知りません。一人会社である為、まともに株主総会も開いたことがありません。

そんな尾弥次に対して、今回は継雄は「株式譲渡」を提案します。株式譲渡の具体的な方法については、売買と贈与がある事を告げます。

1.売買
親族間で株式譲渡契約を締結し、売主が株式を譲渡し、買主たる後継者がその対価を支払う方法です。2.贈与
贈与とは、財産を無償で譲渡することであり、贈与契約を締結し株式を譲渡することにより、後継者は贈与税※の負担のみで株式取得が可能となります。

※「個人」に対して株式を無償で譲渡する際には、譲渡人には税金はかかりません。なぜなら、株式を無償で譲渡しているので、利益を得ているわけではないからです。
一方譲受人には、1年間の無償譲受した株式価額が110万円(暦年贈与)を超えた場合に、贈与税がかかります。

株式譲渡の手順

売買にせよ贈与にせよ、まずは「株式の価格」を算定しなければいけません。中山電器販売株式会社の商業登記を見ると発行済株式数が400株、資本金の額が400万円とあるので、売買による譲渡の場合は最低400万円を対価として支払わなければならないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。

極端な例を言えば債務超過(負債が資産の総額を超えている状態)の会社であれば、資本金額が1億円であっても1円で購入する事が可能です。

①会社価格の評価(自社株式の価格算定)

そもそも非公開会社の株式は、買い手が無いので上場株式のように「株価」が存在しない。その為、株式の価格を算定する必要があるが、会社規模や株主の保有の類型により、その株価の算定方法は異なります。今回の尾弥次の会社は小会社で株主は尾弥次一人ですので、「純資産価格方式」によります。

【純資産価格方式】 ※ほかに収益方式、配当還元方式という評価方法もある
1株当たり純資産価額=
相続評価額による総資産の価額 - 相続評価額による負債の価額 - 評価差額の法人税等相当額(簿価より時価評価が低ければゼロ) ÷ 課税時期における発行済株式数(自己株式控除後)

会社の資産は、会社が有する財産(現金、車両等の固定資産、無形固定資産、貸付金、売掛金)から債務(借入金、未払金(税金)、買掛金、預り金)を引いたもの。

具体的な会社価格の算定方法

発行済株式数400株、資産額100万円(現預金25万円、売掛金25万円)、車両簿価(購入価格)300万円(時価50万円)、負債0円(買掛金、借入0円)を有する会社において、純資産価格方式で算定した1株当たり純資産は((25+25+50)万円/400株)2500円となるので、発行済株式のすべてを譲渡した場合の譲渡額は400株×2500=100万円となる。

この場合譲受人は譲受人に100万円交付して購入対象法人の資産(100万円)を購入したことになる。
(この場合、譲渡前に資産処分して1円で譲渡する事も可能。譲渡に伴い発生する税金を考慮すればこの方がよい。具体的には、株式譲渡を機に尾弥次は引退し、30年間の勤務に対する退職慰労金として100万円を支払えば会社の総資産は限りなく0円となり、当然1株当たりの純資産額も0円にとなります。

②譲渡契約書(贈与契約書)締結

1株当たりの純資産額を算出したら次は譲渡契約に入ります。大きな会社では、ここでデューデリやNDAを締結するのでしょうが、親子間のごく小さな法人を譲渡する場合は株式譲渡契約書(SPA)だけで良いです。(原則、株式譲渡契約に印紙税は掛かりませんが、対価(5万円以上)の記載がある場合は印紙の貼付が必要になります。)

株式譲渡契約書

 中山 尾弥次(以下「甲」という)及び 中山継雄(以下「乙」という)は、中山電器販売株式会社       (以下「丙」という)の株式の譲渡に関し、次の通り契約(以下「本契約」という)を締結する。
 
(目的)
第1条  甲は、本契約の規定に従い、 年 月 日又は甲乙別途合意する日(以下「譲渡日」という)をもって、 記載の丙の発行する額面金額100円の議決権付普通株式400株(以下「本件株式」という)を乙に譲渡し、乙はこれを譲り受けるものとする(以下「本件譲渡」という)。
2  前項に定める本件株式の譲渡は、譲渡日において、甲が、乙に対し、本件株式を表章する株券※(以下「本件株券」という)を引渡す方法により行われるものとする。
(譲渡価額及び支払方法)
第2条 乙は、甲に対し、譲渡日において、本件株式の譲渡の対価として金40,000円(以下「本件譲渡価額」という)を本件株券と引換えに支払うものとする。
(譲渡承認)
第3条  甲は、譲渡日までに、本件譲渡につき、丙の株主総会の承認を取得するものとする。
2  本件譲渡は、前項に定める株主総会の承認を得ることを条件とする。
(協議条項)
第4条  本契約に定めのない事項については、本契約の趣旨に従い、甲乙誠実に協議のうえ、これを決する。
 本契約の証として、本契約書2通を作成し、甲及び乙はこれに記名押印のうえ、各自原本1通を保有するものとする。
   年  月  日
                 甲   中山 尾弥次    印
                 乙   中山 継雄     印
※株券不発行の会社では、株券の引き渡しは不要。
(中山電器販売の定款を確認する必要があるが紛失していれば公証役場の認証不要で再作成が可能です。)

株式譲渡契約書の保管期間は法人税法により7年間と定められていますが、欠損金が生じた年度は10年に伸長します(10年間欠損金を繰り越せるので)。親子間の契約とはいえ、書類管理はしっかり行いましょう。

③株主譲渡承認(株主総会特別決議が必要)

株式譲渡契約を締結した後は、株主総会における譲渡承認が必要です。というのも、中山電器販売は取締役が中山 尾弥次1人の非公開会社なので、取締役会は存在せず譲渡承認の権限は株主総会になる為です。(とはいえ、株主は尾弥次1人なので形式的な決議にはなります。)

株主総会の議事録は、だいたい以下の感じでしょうか。

臨時株主総会議事録

1.開催日時   年 月 日( 曜日) 午前 時 分
2.開催場所   本店会議室
3.総株主数   1 名
4.発行済株式総数 400株
5.議決権を行使できる株主の状況
 議決権を行使することができる株主の総数 1名
 議決権を行使することができる株主の議決権の総数 1名
6.出席株主の状況
 出席株主の数 1名
 出席株主の議決権の数 1名
7.出席役員  代表取締役 中山 尾弥次
8.議事の経過の要領及びその結果
 定刻、中山 尾弥次は議長席につき総会の開催を宣言した。議長は前述の通り、本日の出席株主数及び議決権総数を報告し、本総会は付議案の決議に必要な会社法及び定款記載の定足数を満たしている旨報告した。
(1)決議事項
 第1号議案 株式譲渡承認の件
 議長は、当会社の株式の譲渡につき、当会社に次の通り株式譲渡の承認請求が提出されている旨説明し、議場に諮ったところ満場一致をもって承認可決した。
(譲渡人)
  住所:○○県○○市○○
  氏名:中山 尾弥次
  譲渡株数:400株
(譲受人)
  住所:◆◆県◆◆市◆◆
  氏名:中山 継雄
以上をもって本総会における全議案の審議を終了したので、議長は午前〇時〇分閉会を宣言した。上記の決議を明確認するため、議長である中山 尾弥次はこの議事録を作成し、議長及び出席者は次に記名押印する。
 年 月 日
中山電器販売株式会社 臨時株主総会
       議長兼代表取締役 中山 尾弥次  印 ※
※旧商法下で定められていた規定を踏襲した定款となっており、株主総会議事録にては議長及び出席した取締役の押印が必要。
(代表取締役は会社代表印)

会社法上は株主総会議事録への押印について、特に議長及び出席取締役の押印は義務付けられていません(会社法施行規則第72条)が実務上は書面の真正担保の為に押印をすることがほとんどです。
(話は逸れますが、取締役会非設置会社において代表取締役を選定した株主総会議事録については、原則「出席取締役全員の実印」の押印が必要となります。)

④契約実行(クロージング)

株主総会で株式譲渡が承認されれば株式譲渡契約の効力が晴れて生じる事になります。売買(もしくは贈与)契約書に基づき契約内容を履行し、金銭の授受(売買契約の場合)と株券の交付(株券発行会社の場合)を行います。株式譲渡を贈与にて受けた際は、名義変更(株主名簿の書き換え)が必要となります。なお、上記のSPAでは登記事項に変更は生じないので、登記申請は不要です。

ただし、譲渡後の会社を本店移転したり、役員変更(例えば尾弥次の退任、継雄の就任登記)をする際は各登記申請が必要となります。

さいごに

一応手続きとしては異常となりますが、大切なのは承継した会社をどのように生かすかです。会社は維持するだけでも税金(法人住民税)がかかりますし、ちょっとした役員変更でも登録免許税がかかり、生半可な気持ちで継いでしまうとただのお荷物になってしまいます。

上記は例え話で挙げたものですが、これを機に会社を辞めて父に師事するというシナリオもあるかも知れませんし、副業に本格的に乗り出すかもしれません。

関連過去ブログ:副業リーマンショック!?は→コチラ

承継の際はくれぐれも、計画をしっかり立てましょうね。

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