不動産 法律

不動産購入講座~心理的瑕疵物件とは?

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司法書士がお届けする不動産購入講座。今回は心理的瑕疵物件について説明するとともに、最近の質の悪い「煽り記事」についても述べていきたいと思います。

記事の概要は以下の通りです。

4000万で「事故物件」をつかまされ、結局「大損」してしまった40代夫婦の末路

佐々木義孝さんとみどりさん(ともに43歳・仮名)は、とても仲が良い「友達夫婦」。4000万円で念願の一戸建てを購入し、幸せの絶頂にあったことは【前編】『4000万で購入した「念願のマイホーム」が、「事故物件」だった40代夫婦の悲劇』でも紹介した通りだ。

引用元:マネー現代 2022.01.26

事故物件とは?

まず「事故物件」について説明しましょう。売買及び賃貸対象の不動産において、過去に殺人・火災・有名な事件が起こった物件を一般に「事故物件」と呼びます。(不動産業者や法律専門家は「心理的瑕疵物件」と言います。)

不動産は高額な商品である為、一般の不動産購入検討者は、性能に問題がなくとも、過去に悪い風評のある物件の購入を避けたいと考えます。物件の性質上、事故物件となり得るのは中古物件ですが、まれなケースで竣工前に建設関係者が工事中の事故で亡くなったり、火災が起こったりして風評被害が起こることもあります。

以前は、その様な事故物件は秘密にしたり、もしくは聞かれない限り答えないというスタンスで販売する業者もいましたが、トラブルが多発してニュースでも取り上げられるようになり、ガイドラインや法整備されてきたため、問題事案は減少しています。しかし、グレーな取引も厭わない不動産仲介業者は少数ながらいるもので、上記の記事もそんなアミを潜り抜けた一例かなと思い興味本位で眺めてみたのです。

これは講談社の「マネー現代」というWEBメディアの記事で、著者は個人の不動産投資家との事でしたが、あまりにも低レベルかつ創作色が強い駄記事だったので、本ブログで取り上げることにしました。

どんなストーリー??

プロローグにあたる前篇を見ると、購入したのは40代の夫婦で、妻がリノベ物件をネットで見つけて、不動産屋に問い合わせをして購入した築11年の戸建物件だそうです。

心躍らせて入居したものの、不可解な出来事が夫婦を襲ったそうです。

・入居直後に妻が風邪を発症。原因不明で40度近い熱が1週間も下がらなかった。

・これまで大人しかった飼い犬のチワワ2匹がけんかをして、片方が死んだ。

・引っ越してからよく眠れない日が続き毎晩、急に目覚める。時計を見ると決まって午前2時11分(??)

というものです。いや、この段階で十分胡散臭いですが、実際に起こった出来事という事ですので、敢えて突っ込みません。(私も子供の頃墓場で遊んでいたら、急な腹痛に襲われた経験がありますからね。)

「知り合いのアドバイスに従って「事故物件」を検索するサイトで自宅を調べてみた……。」

とありますが、このサイトは「大島てる」ですかね。

引用元:大島てるHP

そして、そこに記載されていた内容は、6年前に一家心中があったというものでした。

その為、夫妻は妻方の実家に一時避難したり、部屋を30万円かけてお祓いをしたりして散々な目にあったとあり、その後仲介業者に文句を言ったそうです。(そりゃそうだ)

すると、なんとその仲介業者の対応は、「担当者は退職した」「事件についてはきちんと説明した」とのらりくらりとした感じで責任を取ろうとしなかったそうです。結局、多少色をつけて、そのちゅ開業者に買い戻してもらったが購入金額から大幅に減少した金額だったという事です。

実務的にはありえないレベルの茶番劇

一般人なら「いやぁ、怖いわね~」で終わる話かも知れませんが、専門家的に見るとそんな結末になる訳が無いだろというツッコミどころが満載なのです。

まず、ルール上は通常、この様な水掛け論にならない様に、対象物件で自殺等が発生した場合は宅建業法35条で重要事項説明書に記載義務があるのです。

このケースでは、契約時に6年前の一家心中に関する告知を行っていなければ、完全に売り手の負けです。本件では売主が仲介業者を騙した可能性もありますが、この記事では売主の存在についてはなぜか触れられていませんね。

仲介業者のみならず売主も帰責事由があるので、引渡した物件に関して民法上の「契約不適合責任」(不適合の内容には「心理的瑕疵」も含ます)を負わなければなりません。また、心理的瑕疵は主観的なものなので、お祓いしたと言ってもそれだけをもって「追完」とは認められにくいでしょうね。

上記の様なルールで買主は保護されているのでなので、基本的に言った言わないの水掛け論になるわけがないのです。(業者が素人でない以上)仲介業者が入っていて、重説を含む契約書を取り交わしている以上、このシナリオの帰結は2通りしかありえません。

①重要事項説明書に、心理的瑕疵について記載していたケース
→契約時に重要事項説明を聞いていない買主が間抜け(もしくは内見したときに霊に呪われて契約時の記憶が飛んでいたか)。
 ちなみに、心理的瑕疵を記載・説明したのにわざわざ買い戻してあげた業者もお人好しですが、買い戻し(買い叩いた?)た物件を更に高値をつけて売れる相手を見つけていたのなら、悪徳業者いい腕をしているなと思います。  

②重要事項説明書に、心理的瑕疵について記載していなかったケース
→クレーム時に重説を読み返していない買主が間抜け、あと「事件についてはきちんと説明した」といった担当者は更に輪をかけて大間抜け。
 いずれにせよ、監督庁に処分を求めれば、その業者は行政指導・営業停止・免許取消となるでしょう。当然、当該取引は契約解除事由に当たり、買主夫婦は契約不適合を知った時から1年以内であれば、仲介業者(もしくは売主)に返金を要求する事ができるでしょう。

最後に言わせてもらえば、この記事を著者が一番の間抜けという結論になります。宅建業法を理解、つまり取引実務に触れていれば、この記事の様な結末にすることはできないはずです。

ちなみにこの告知義務について、どこまで説明するか、いつまで告知するかについては、(法律的に)明確に決められていない為に、素人感覚で買主に不利になるのではないかと考えがちですが、法的に則れば、告知義務が生じるかどうは、客観(決まった年数経過)ではなく買主の主観(一般人が気持ち悪いと感じるかどうかの基準)で判断されるので、不動産業者は心理的瑕疵の判断基準に関して、より保守的に動くはずです。

もはや著者が不動産投資家というのも怪しく感じるレベルです。不動産投資家が告知義務や重要事項説明書を知らないという事はあり得ないですし、知っていれば、「水掛け論」というワードが出てくるはずもなく、そこをフォローしつつ当該記事を展開しているはずです。

著者が事故物件買取業者であれば、煽り記事としての役目は果たしたと言えるかもしれませんが、皆さんもネット記事を読む際は、十分注意して内容を鵜呑みにしない様にご注意を!

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長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。