司法書士 法律

会社法改正について司法書士が解説

投稿日:2022年1月24日 更新日:

このブログでは過去に民法改正について触れていましたが、そういえば会社法については扱っていなかったなぁという事で、会社法の改正(登記実務にも触れながら)について解説していきたいと思います。

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既に一部施行されている改正会社法(公布日は令和元年12月11日)ですが、株主総会資料の電子提供制度については今年の9月1日施行という事が決定しましたので、簡単に改正点の概要を説明します。(自分自身の知識の整理がメインなので内容に偏りがあるかもです…)

司法書士が企業法務に関わる場面は総会や取締役会決議により変更された登記事項(資本金の額、役員変更)が多いのですが、この改正では、総会運営に影響を及ぼすものが多く、きちんと改正内容を把握しておく必要があります。皆さんも近い将来会社の役員になる可能性もあるかもしれませんので、自分の身を守るためにもきちんと把握しておきましょう!

①株主総会資料の電子提供制度(改正会社法325条の2、911条2項12号の2)

株主総会資料(株主総会参考資料、議決権行使書面、計算書類&事業報告書等)を、WEB掲載により株主提供可能となりました。実は以前から、似たような制度はあったのですが、その際は、個別に株主の承諾を得なければならないため利用されていなかったという経緯がありました。手続き迅速化と費用の軽減に資するものとしてかねてより要望が強かったものが実装された形となりました。令和5年(2023年)3月開催の株主総会から適用となります。

また、株主総会の3W前(または招集通知を発した日のいずれか早い日)までにウェブサイトへの掲載を開始する必要があります(改正会社法325条の3)。
また、この制度を導入すると、非公開会社でも招集通知は総会の2W前になる(改正会社法325条の4)ので、上場していない会社や同族会社はデメリットの方が多くなってしまうかもしれませんね。
また、当該制度をとる場合でも招集通知は書面で発送する必要があります。一気通貫でWEB化できると良いのですが、これは次の改正までの課題ですね。

司法書士的には電子提供制度を採用する場合、それを定款で定めて登記をする必要があるので、お仕事が増えてうれしい反面、情報がアップデートされておらずあたふたしていると信頼がた落ちという事になりかねません。

②株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備(改正会社法305条4項)

株主提案権の濫用と聞くと総会屋などの反社組織を思い浮かべますが、最近、会社が神経を使っているのは、もっぱら投資ファンドなどの「物言う株主」の方です。

株主提案権のうち「議案要領通知請求権」とは、総株主の議決権の1%以上の議決権か、300個以上の議決権を持っている6ヶ月以上の継続株主に認められる権利です(会社法303条)が、一部の株主がこの権利を濫用していたため、1回の株主総会につき「1人10議案」とする制限規定が新設されました。
従来会社法では、濫用的な議案提出については過去3年以内に一定数以上の賛成を得られなかった議案は再度の提案ができないという建付けでしたが、今回の改正はこれに加えて事前提案できる議案数の制限にも踏み込んだものです。

なお、議案要領通知請求権の議案は10を超える事はできませんが、議案の性質によっては1個にまとめられるケースもあります(改正会社法第305条第4項各号)。具体的に4号(相互に矛盾する議案)で実務上該当しそうな例としては「監査役廃止」と「監査等委員会設置」があります。

③取締役の報酬に関する規律の見直し

取締役の報酬については、定款または株主総会決議で定める(会社法第361条)と規定しています。多くの会社では、取締役全員についての報酬総額を株主総会で決議し、個々の取締役に対する報酬の決定は取締役会で決めているかと思います。

今回の改正で361条7項において、(上場会社に限りますが)一定の条件のもと、取締役会における取締役の個人別の報酬等の内容の決定方針の策定が義務化されました(改正会社法第361条第7項)。
これは、個人の報酬額の決定プロセスに疑義がある事案が散見され、取締役のパフォーマンスや業績に見合った報酬が支給されていないのではないかとの声が上がっていたためです。

業績連動報酬等の有無及びその内容や、取締役個人別の報酬等を代表取締役に一任できるとする等、会社が定めるべき報酬に係る決定方針については、法務省令によって具体的に定められる予定です。

ちなみに日本の役員報酬は欧米に比べると総じて低額&定額でこのことが、サラリーマン社長と揶揄されるような保守的な経営になっていると言われています。このため、株主にとっての企業価値の向上のために業績と連動する対価(例:特定譲渡制限付株式やストックオプション)で報酬の一部を支給する動きが増えていることに伴う改正です。会社法第361条第第1項第5号では取締役に株式等を付与する際の付与する株式等の数の上限を定めると規定されています。

なお定款または株主総会決議で、株式を報酬として付与することを定めて募集をする際には、通常の発行決議では定めるべき会社法第199条2項1項2号(払込金額)及び4号(払込期日)を定める必要がなく、その代わりに定める事項は、「募集株式の発行と引き換えにする金銭の払い込み等を要しない旨」(新法202条の2第1項1号)、と「募集株式を割り当てる日」(同2号)となります。

④会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備

企業の取締役等が負う可能性のある賠償責任は、任務懈怠責任、利益相反取引、競業避止義務違反等が代表的です。これらの責任免除規定は従前からありましたが、責任免除は株主全員の同意が必要で免除規定としては非現実的でした。

また、責任の一部免除規定もありますが全ての賠償を回避できるわけではない(特別決議が必要で、そもそも役員側に善意かつ無重大過失の要件がある)ので、役員を打診されても就任に後ろ向きの人も多く、優秀な人材が集まらないという問題が生じていました。そこで、取締役が株主等から責任追及の損害賠償請求を受けた場合に会社補償が受けられる旨の規定が創設されました。

まず、改正会社法第430条の2第1項で会社が役員と補償契約を締結することにより、役員等が職務執行について責任追及された際に対処の為に支出された費用、第三者に対する損害責任を負った時の損失について、会社が補償することができると規定されました。

取締役会設置会社における補償契約締結の際は、取締役会決議(取締役会非設置会社は株主総会決議)が必要です。

補償範囲について

補償される費用については、相当の範囲内を超える補償ができません。加えて悪意重過失のある役員の行為に起因する損害については全額補償対象外となります。役員等が自己もしくは第三者の不正な利益を図り、または会社に損害を与える目的で職務執行をしていたことを事後的に知った場合は、補償した金額の返還を請求できるとされています(改正会社法430条の2第3項)。

免除可能限度額の計算方法

免除可能限度額は、役員が負うべき賠償額から最低責任限度額を引いた金額です。

下記に具体例を挙げましょう。
5000万円の損害賠償責任を負うとされた代表取締役Aの報酬額が年500万円のケースでは最低責任限度額は、500万円×6=3000万円となり、2000万円が免除可能限度額となります。Aが800万円の報酬を受け取っていたとすると、最低責任限度額は4800万円まで上昇し、最大でも200万円しか免除されないという事になります。

仮に、株主総会で(2000万円以内の金額で)代取Aの責任を免除する旨の決議(特別決議)を得ることができれば、免除可能限度額の範囲で決議された金額が免除できます。要するに免除される可能性はあれど、最低責任限度額までは損害賠償義務を負う事になります。

ただ、その責任の重さは役職により異なるという事です(代表取締役で報酬金額の6年分相当額、代表取締役以外の取締役で報酬金額の4年分相当額、社外取締役、監査役、会計参与、会計監査人で報酬金額の2年分相当額となります。上記ケースで報酬が同じだったとすると平取締役Bの免除可能額は3000万円、監査役Cの免除可能額は4000万円となり、代表者の責任が重いという建付けになっています)。

⑤D&O(会社役員賠償責任)保険(改正会社法430条の3第1項)

D&O保険とはDirectors and Officers Liability. Insuranceの略で、会社役員としての業務の遂行に起因して会社や第三者に損害を与えてしまい、株主・当該第三者から保険期間中に損害賠償請求がなされたことによって被る損害に対して支払われる保険です。

会社が役員等のためにこの保険を締結する場合も、取締役会決議(取締役会非設置会社の場合は株主総会決議)が必要です。なお、役員が自衛のために個人的に賠償責任保険に入る際は決議は不要です(あたりまえですね)。

なお、改正前もD&O保険は商品として存在していましたが、保険を付保する事によりコンプライアンスを軽視する役員が現れるといった懸念があった事から、これを明文化して保険契約の内容を決議で定めるとしたものです。

保険契約の内容は、保険会社・被保険者(役員)・保険料・保険期間・保険金支払事由・支払限度額・填補される損害の範囲、特約等となります。改正前に既に保険会社とD&Oを締結している企業も多いので、保険の更新時や役員変更があった時に上記の決議が必要となります。

⑤社外取締役に関する規律の見直し(改正会社法348条の2、327条の2)

社外取締役に対する業務執行委託

社外取締役というのは、文字通り社外の取締役という事です。これまで当該会社と全く接点が無かった者しかその任に就くことができません。また、社外取締役は業務執行に携わると「社外性の要件」を失ってしまう(会社法第2条15号ニ)ので、マネジメント・バイアウト(MBO:取締役による買収)の様な、会社と取締役の利益が相反する状況が起こる場面で社外取締役が関与できるようにして欲しいという実務上の声に応える形で取締役会決議により、社外取締役に業務執行を委託できるとしたものです。

社外取締役の設置義務

2014年の会社法改正時には人材がいない等の理由で見送られた社外取締役の設置義務でしたが、徐々に上場企業を中心に浸透したこともあり、満を持して新設されました。なお、改正前会社法第327の2では「社外取締役を置いていない場合には、(中略)、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない」という、妥協の産物ともいえる条文がありましたが、この気持ち悪い条文は今回の改正で「設置義務」に置き代わりました。

ちなみに、社外取締役を置くことでガバナンスの透明性が確保されるという触れ込みですが、実際のところどうなのでしょうね。社外性の要件があるとはいえ、何らかのシガラミがあって社外取締役に就任するケースがほとんどなので、経営陣に対してきちんと物が言えるとは思えませんがね(依然として企業の不正が亡くならないのがその証拠かと…)。

社債管理補助者の創設(改正会社法714条の2)

従前、企業が社債発行する際は「社債管理者」を置くものとされていましたが、この改正により、社債管理者を置かない場合について、「社債管理補助者」を定めることができると定められました。(社債管理は主に銀行や証券会社が行いますが、委託料がとても高いですからね)

社債管理補助者は、社債管理者よりも権限が限定されていますが、社債の発行額や管理コストに応じた利便性のある取扱いが認められたことになります。

⑦株式交付制度(改正会社法774条の2)

改正前も株式交換を利用することにより、買収会社が被買収会社の株主に買収会社の株式を交付して「完全」子会社化することはできましたが本制度の創設により、完全子会社化を予定しない場合であっても、買収会社が買収された会社の株主に自社株式を交付することができる事としました。「ミニ株式交換」と表現され、より柔軟な組織再編が可能になりました。

従前は買収会社は被買収会社の株式を現物出資財産として自社の株式の募集をするという形を取っていたが、①原則として検査役の調査を要する事(会社法第207条)と、②引受人である被買収会社の株主及び買収会社の取締役等が財産価額塡補責任を負う可能性もあり、使い勝手が悪かったことから、簡易に同様の効果を得る事ができる本制度を新たに置きました。

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。