司法書士

司法書士養成制度の見直しとは?

投稿日:2021年10月7日 更新日:

日司連ポスターより:「知ってる?司法書士」(自虐ネタ?)

来年2022年、司法書士制度は150周年を迎えるというのはご存じでしょうか?え?私?私は下記のプロモーショングッズが今年頭に来るまで知りませんでしたけど何か?

唐突に記念品が郵送されて少々驚きましたが、150年も続く歴史の深い士業であるというのは、改めて身が引き締まる想いです。使用方法は特に同封されていなかったが、シールはとりあえず名刺に貼るんだろうなと思い、子供にシール貼りのバイトをしてもらいました。

司法書士徽章「五三桐」

ピンバッジは中々付ける場所が無い…あったとしても「司法書士」とデカデカと記されているので、なんだか恥ずかしいです。ちなみに司法書士の徽章は貸与(有償で¥6,500)されているものという事はご存じでしたか?徽章は退会する際は返却する必要がありますが、流石にこれは返却不要ですよね?という事で一応不安なので大切に封から出さずに保管しています。(おそらく、一生封を解くことはないであろう…)

話が逸れましたが、歴史があるという事は、色々負の側面もあるという事でしょう。特に法制度に左右されがちな資格ではありますので、150年の間に試験制度や職域等で大きな変更・転換点がありました。今回は、移り変わりの激しい社会の中で司法書士のあるべき姿が変わりつつあるという話をしていきたいと思います。

題名は別々ですが、前回の司法書士トピックの「教員免許更新制から司法書士制度を考える」とワンセットで読んでいただけると良いかと思います。

関連過去ブログ:教員免許更新制から司法書士制度を考えるは→コチラ

過去ブログのおさらいをすると、業界は違えど、聖職と言われる教職のレベル低下が憂慮され2009年に開始された教師免許の更新制でしたが、形骸化が激しく2022年に廃止されるという報道がありました。上記を基に「もし、司法書士資格も更新制になったら?司法書士資格はなぜ更新制を取ら(れ)ないのか?」という話を、現在の研修制度も参考に挙げながら現役司法書士の目線で語った、というのがあらすじです。

変わらない士業制度はありえない

日司連ポスターより
司法書士制度150年イメージキャラクター高橋惠子さん。

ブログの中では司法書士資格については更新制をとることは無いだろうと記載しましたが、この事は、もちろん司法書士制度が変わらない、もしくは司法書士に変化など不要であるという事を意図している訳ではありません。時代時代に合わせて市民のニーズに適合する法律専門家である必要がある事から、むしろ変化は積極的に受け入れていかなければ司法書士制度自体が衰退するだろうとすら思っています。

では、実際「現在の司法書士は、どのような制度改革に取り組んでいるのだろうか」というのを調べてみたのが今回のテーマです。

教師免許の更新制度の廃止の流れを受けて検討を開始したのかどうかわかりませんが、関連資料を漁ってみると、司法書士会で司法書士の試験制度や研修・教育制度について議論がされているようです。2020年に発行された司法書士会報「THINK」の中で、「司法書士養成制度検討会最終報告書」と言う特集記事がありました。

この中で掲げられている「司法書士養成の現状と問題点」を読んで、現役の司法書士としていくつか思う所があったので紹介します。

研修制度でみる司法書士養成の現状

既存の研修制度は日司連・司法書士会等司法書士組織が自主的に実施するもので、人材養成を専門とする大学等高等機関でなされてはいない。しかも強制でないために、司法書士全体の資質・能力の平準化ないし向上に繋がっていないので、結果として多様化する社会的ニーズに司法書士制度全体が応えきれていない
引用元:司法書士会報「THINK」118号より

少し補足すると、司法書士には簡裁代理権を与えられており、弁護士不在地域においては「身近な街の法律家」としての役割を期待されていますが、司法書士の登用は旧来からの(主に登記に関する知識を問う)試験でのみなされているのが現状です。(一部、特任制度(司法書士法第4条)で裁判所書記官等の公務員から登用されます)

また試験合格後、晴れて実務家になった後も、研修制度もある事はあるのですが、それが司法書士のあるべき姿に導くものかと言われるとそこまで制度として体系化されていない(地域毎に行われている取組みも多く、実務家として自主的かつ任意的な学びの場があるに過ぎない)ですよね、という事のようです。

コラム:司法書士特任制度
特認制度とは一定の条件を満たした公務員であれば無試験で司法書士資格を得られる制度です。司法書士試験が合格率3%という難関国家資格であることから、特任制度は不公平だ!等の批判があると聞きます。
ちなみに人数で言うと…

平成20年度 (試験合格者)965 (法務大臣認定)167 (法務局長認可)4 (全体)1,136
平成21年度        895         124         6     1,025
平成22年度        1,059         136         7     1,202
平成23年度        970         116         4     1,090
平成24年度        862         102         5     969

しかし、みなオジも合格する前はズルいなぁとは思っていましたが、①登記官などの法務事務官になること自体がそれなりに難しいこと、②法務事務官であれば誰でもなれる訳ではない事(一応、それなりの職位の事務官であって筆記などの考査を経る必要がある)という事もあり、今はそこまで気にならなくなりました。何より行政側に立って、登記に関する通達や先例を出す側であった訳で、実務経験無く司法書士試験を突破した者よりは(少なくとも)登記実務については精通しているよね、という(屁)理屈も成り立つでしょう。
司法書士法
第四条(資格) 次の各号のいずれかに該当する者は、司法書士となる資格を有する。
 司法書士試験に合格した者
 裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官若しくは検察事務官としてその職務に従事した期間が通算して十年以上になる者又はこれと同等以上の法律に関する知識及び実務の経験を有する者であつて、法務大臣が前条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うのに必要な知識及び能力を有すると認めたもの
司法書士の資格認定に関する訓令(法務省民二訓第779号)
第1条 次に掲げる者は,法務大臣に対し,資格認定を求めることができる。
(1 ) 裁判所事務官,裁判所書記官,法務事務官又は検察事務官として登記,供託若しくは訴訟の事務又はこれらの事務に準ずる法律的事務に従事した者であって,これらの事務に関し自己の責任において判断する地位に通算して10年以上あったもの
(2 ) 簡易裁判所判事又は副検事としてその職務に従事した期間が通算して5年以上の者
第2条 司法書士の業務を行うのに必要な知識及び能力を有するかどうかの判定は,口述及び必要に応じ筆記の方法によって行う。

司法書士試験も転換期にきている?

試験制度の観点からも、次のような問題点が述べられています。まず司法書士試験科目の特徴として、実務の力を問う内容の試験となっており、具体的には不動産登記法、商業登記法などの手続法科目が多いという特徴があります。それに加え、憲法は試験科目に含まれるものの3問と試験全体からのウェイトは小さく、司法書士を目指す法律初学者は「基礎法学」やそこから派生する「人権に関する問題」について学ぶ機会が少なく、結果として、要件事実などの法理論の基礎や大陸法と英米法等の比較法学の知識を持たないまま法務実務デビューする者も多いのです。

まあ、上記のの基礎学習を経なければ一概に法律専門職としての「素養が無い」という事にはなりませんが、隣接士業である行政書士試験の方がまだその辺りの知識を重要視しているという印象を受けます(一応、みなオジも行政書士試験を経験し、資格は有しています)。士業は特に上下関係を持つものでは無いので、行政書士試験をクリアしなければ司法書士試験を受けられないという事はありませんが、行政書士試験(基礎法学の学習)を経験せずに法律初学者がいきなり司法書士試験をパスして法律実務家になるという事は起こり得るのです。

一番の問題は、近時の試験の難化傾向を受けて、短期合格の為に受験者側も「暗記や受験テクニック」に頼らざるを得ず、結果として法的思考力を鍛える機会が後回しになるという点も問題ではないかと思います(過去問を解くと分かると思いますが昭和の時代の問題(特に記述問題)は今の問題と比べると非常に簡単です)。

もちろん登記のプロである司法書士ですので、手続法に偏重するのはある程度仕方のない事だと思いますが、後見業務や裁判業務を行う上では、真に業務に耐えられるだけの知識を有する事を証明しているのかという事が憂慮されているといった書きぶりでした。

これは司法書士に限らず、士業全般に良く言われることですが、「資格試験合格はゴールではなく、実務家としてのスタートに過ぎない」のです。

司法書士養成制度の検討

試験制度で色々な問題点を挙げていましたが、同様の問題は司法書士だけでなく他の資格試験もあります。そもそも、試験だけでは実務に耐えられないからこそ、合格後の研修が必要とされている訳で、試験制度だけに負担を強いるのではなく、その後の養成制度もひとまとめして課題解決に向かいましょうという流れになっています。

試験合格後、司法書士の場合は日司連の新人研修(40H)、各司法書士会、ブロック会主催の研修、簡裁代理権認定の為の特別研修(100H)があります。新人研修後も各司法書士会の地区会毎に研修を企画したり、e-ラーニングを利用したオンデマンド研修があります。

本報告書においては、試験、登録後の司法書士養成は、以下の①~⑤を重視して試験制度を設計し、研修内容を企画すべしと記載されています。

              具体的な施策
①人材の多様性の確保法学部出身者に偏らない、社会経験が豊富な者を併せて人材確保する工夫
②実務能力の養成基礎から応用の法律知識と実務能力を養成できる、一貫性のあるカリキュラム
③個人の能力を活かす養成国民の権利保護のため、多様な知識や技能の習得を可能とする制度
④受講しやすい教育方式の採用e-ラーニング、またはWEB+スクーリングのハイブリッド型研修の実施
⑤経済支援研修に経済支援(日当の支払い、テキスト代無償、宿泊・交通費の支給等)
司法書士養成制度の特徴(重点ポイント)

試験内容の見直し

試験制度と研修制度の見直しというのは、非常に分かりやすく確かに必要な取り組みだなというのは、見ていて共感できました。

本報告書では更に踏み込んで、「新司法書士試験」「大学院等での司法書士の養成」にについて記載されています。この辺りから、賛否が分かれる内容になっている様な少し、尖った内容の改革案になっています。上記について、いくつかかいつまんで紹介しましょう。

新司法書士試験(科目免除制度の導入?)

新司法書士試験の最大の目玉は法科大学院修了者等に対する一部科目の免除(具体的な免除科目には「民法」と言われています)を打ち出しています。

唐突に法科大学院が出てきたな、というのが率直な感想ですね。ちなみに法科大学院制度はアメリカのロースクールを参考に日本でも制度化されたもので、大学院で2~3年の教育が修了すると、司法試験の受験資格(5回まで)が得られるというものです。司法制度改革の目玉的施策で当初は多くの入学者がいましたが、新制度で受験資格を得た受験者の合格率が伸びず、その結果ロースクール入学志望者が減り、近時では定員割れが顕著となり、不人気なスクールでは募集を停止した所もあるという、やや期待外れに終わった制度です。

また学費の負担も大きい(年間150万円程度)にも関わらず、定められた受験回数内で司法試験に合格できないという「5振者」問題(資格無し、職歴無し、中年である)が取り上げられました。

今回の新司法書士試験では、彼ら5振者に科目免除を与えようという事らしいです。司法書士の人材難を背景に「①人材の多様性の確保」を目標に挙げていましたが、職歴無し、社会人経験の乏しい者に対して科目免除を与えて合格を後押しする事が、上記問題の解決に資するのかと言われると首をかしげざるを得ません。

更に言えば、民法が免除になったところで、手続法の知識はロースクールでは民事訴訟法くらいしかないので、免除のインパクト的には大した恩恵にはならず、むしろ既に司法試験に長い時間を費やしてきた浪人生に更に司法書士試験をチャレンジさせてしまう事になりかねず、彼らの社会復帰を徒に遅らせる要因になるのではないかと感じます。(自己責任といえばそれまでですが、彼らに細い「蜘蛛の糸」たらすのは少々無責任ではないかと思うのです…)

であれば、下手に試験科目免除という策を弄さなくても、ロースクールを卒業した者に司法書士事務所で2~4年の実務経験を積ませたのち、実務知識を問う考査を設けて受験者の6~7割くらいを合格させる様な形で門戸を開けば、人材難(人手不足)、実務家登用、ロースクール卒業生(無就労者)の救済とまさに三方良しとなるのではないかと思うのです。

大学院等での司法書士の養成

もう一つの改革の柱が、「大学院等での司法書士の養成」です。ここで、勘の良い方ならお気づきかも知れませんが、なんだか大学院職員の雇用の受け皿になっていないか?という事を感じてしまいました。少子化による高等教育機関の飽和状態はここ数年来の懸案事項ですし、司法制度改革を受けて一時期すごい勢いで認可を受けて設立されたロースクールは次々と募集停止や廃校となっています。

さらに今回追い打ちをかける様に決定した「教師の更新制度廃止」により、免許状更新教育の行使を担当してきた大学教授・講師の食い扶持を確保する意図がないかと思わず勘ぐってしまうのです。

懸念点てんこ盛りの制度

司法書士養成制度の趣旨・目的は素晴らしいものだと先ほど評しましたが、手段ありきの目的となっていないかという所に少々懸念を有します。現役の司法書士から意見させてもらうと、養成に伴う金銭的負担と研修により実務に充てる時間が割かれることで、司法書士になりたてで経済基盤の弱い司法書士に負担を与えてしまわないかが不安です。制度検討会の中で今回挙げられている養成制度は、司法書士登録の条件として養成講座の受講と修了認定を必要としていることから、必然的に試験合格から実務に就くまでの期間※が空いてしまう事を意味しますので、それに嫌気して司法書士志望者が他に流れてしまう懸念もあると考えます。

※司法書士養成制度の教育プログラムは1年で履修できる内容とあるので、試験合格から最低1年は司法書士としての業務は出来ないという事になります。そう考えるとその間はアルバイトをするか、司法書士事務所で補助者として(お世辞にも高いと言えない勤務司法書士より更に安い給料で)働かなくてはならないという事になります…

これだけでもぞっとする内容(学習内容自体の事ではなく、あくまでも制度的な観点)ですが、更に資料を読み進めると修了認定について以下の様に書いています。

司法書士養成制度検討会資料より抜粋

認定されなかった者について

認定は養成講座における能力学習の判定である。そこで養成講座終了判定を得た後3年以内に認定を受けられなかった者は、再度司法書士養成講座を受講し、終了判定を得た後に再度認定を受ける事が出来る

引用元:2016年6月30日 日本司法書士会連合会:司法書士養成制度検討会「5.修了認定」より

どの程度の認定水準を想定しているか分かりませんが、これって結構厳しいですよ。だって、いくら掛かるか分からない(無償ってことはないよね?)1年間の講座受講を認定されるまで何度でも受け続けなければならないって事ですよ!?経済的に厳しい人ほど講座に時間を費やすことが出来ず、結果として認定が遅れるという負のスパイラルに陥らないか非常に不安のある制度です。

ただし、今回の制度には⑤の経済支援もセットになっているという事なので、私の杞憂であればよいのですが…(支援の内容が、くれぐれも大学の奨学金(返済型)の様な事はしてくれるなと思います。)この様に結構厳しめの制度設計ですが、これは司法試験合格者の司法研修を意識したものなのでしょうか…

リカレント教育についても義務化?

この検討会資料には、養成制度の他にも「大学院などにおけるリカレント教育」つまり司法書士登録後に行われる継続的な付加的教育にも触れられており、義務化された研修の未受講者には「ペナルティ制度」も視野に厳しく実施するとの記載がありました(涙目…)

司法書士養成・リカレント教育、受験漬けでバランス感覚を持った司法書士が減った事により、多様化する社会的ニーズに対応できないという問題意識が日司連及びこの検討会メンバーに共有されている事から、現役の司法書士としては強制される前に自発的に自己研鑽を積んで、市民に信頼されるプロフェッションでありたいと初心を思い出したみなオジなのでした。

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。