司法書士

教員免許更新制から司法書士制度を考える

投稿日:2021年10月4日 更新日:

ある日、令和3年度の東京司法書士会の総会議事録議事録を見ていると司法書士の研修制度を見直す(具体的には、研修の必要単位取得の義務化と研修の無償化)という記載があり、どうなるのかなと思っていたところ、時を同じくして「教員免の許更新制廃止へ」と言うニュースを見ました。

教員免許更新制、23年度にも廃止 指導力の向上なお課題

文部科学省は23日の中央教育審議会の小委員会で、小中高校などの教員免許の期限を10年とし講習の受講を義務付ける「教員免許更新制」を廃止する審議まとめ案を示した。多忙化する教員の負担になる上、内容が実践的でないなどの指摘が相次いでいた。同省は2022年の通常国会に同制度を廃止するための教育職員免許法改正案を提出する方針。最速で23年度に更新制は廃止される見通し。同省は自治体や大学などと連携し、教員が資質向上のために学び続けられる制度を検討する。(中略)

まとめ案は制度の現状について「更新しなければ職位を失う状況下で学びが形式的なものとなり、学習効果を低下させてしまいかねない。制度の発展的な解消を検討することが適当だ」とした。


引用元:日本経済新聞2021年8月23日

教師は司法書士と異なり、更新のある免許制を取っています。(ちなみに平成21年(2009年)に更新制度が開始。)同年4月1日以降に授与された免許状は有効期間(10年)があり、免許の更新をしなければ運転免許の様に失効してしまうのです。ただし、免許更新は形式的であり、落とす前提のものではありません。

目的
教員免許更新制は、その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すものです。
※ 不適格教員の排除を目的としたものではありません。
文部科学省HP:教員免許更新制の概要

今なら完全アウトの名物(?)教師

ちなみに昔の教師って良い先生も一定程度いましたが、今思うとかなりヤバイ人が多かったような気がします。体罰(グーパンチ)、暴言(注意とかではなく、ただの罵声)とか日常的にありましたし、授業中生徒を指して、問題に答えられなかった生徒を丸々1時間廊下に立たせるといった、パワハラまがいの教師もいましたね。(他にやり方あるよね?)

学校自体が治外法権的な所があるからかもしれませんが、普通の会社だったら絶対に受け入れられないような教師がゴロゴロいたと思います。みなオジの高校は進学校だったので、それ程でも無かったかも知れませんが、荒れた学校だと、もはや教師だかアチラの筋の人か分からないような見た目の教師もいました。(教師は聖職であるべし、という思い込みが強いのかな?)

あれもこれも、一度教師になれば、

結局のところ、教職免許の更新制は負担が多く(「教育職員免許法」第九条の三第3項で免許状更新講習は「30時間以上」と定められている)形骸化しているので、もっと意味のある能力開発的な制度に変えていこうという事らしいのです。

司法書士試験の合格後は?

隣の庭である教師の更新制度改革を見てみましたが、司法書士は資格取得後どのようにその資格を維持するのでしょうか。

結論から言えば、司法書士は合格してしまえば資格は永久に続きます。教師の様な更新制度もありません。ただし、登録後、欠格事由(破産等)に該当するか、何らかの問題を起こして所属の書士会から「業務禁止」の懲戒処分を受けた場合は、再登録時に登録拒否(他の書士会であっても拒否)されるので、実質的な資格喪失となります。

司法書士の研修制度

教師の様に更新制度も無い司法書士は、いったいどのように知識やスキルを維持しているのでしょう。

司法書士法第二十五条 (研修)
司法書士は、その所属する司法書士会及び日本司法書士会連合会が実施する研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならない。

従来より、司法書士はその能力維持・向上の為に「単位制研修」を取り入れていて、年間に一定の単位数を取得する必要があります。この単位制度に加え、5年に一度受講すべき「年次研修」というのもあります。

・すべての司法書士会員は、1年間に最低12単位(甲類8単位うち倫理2単位以上)の研修単位を取得する義務があります。(日司連会員研修規則(第6条、第12条))
・司法書士会によっては、別途、会則や研修規則に会員の研修受講義務を明示している場合があります。
引用:日司連研修総合ポータル

とはいえ、この単位は努力目標化しており、この単位が未達でも資格の失効などはありませんでした。実際、東京司法書士会の状況を例に挙げると、

今年度も単位は参考程度ということで申し上げましたが、総会要領 66 ページをご覧いただきますと、東京会は 29%(おそらく単位未達者の割合)ということで、前年よりも下がっています。また、こちらには書いていませんが、ゼロ単位の方は 1972人と、たぶん全国でワーストワンではないかと思います。(中略)
なお、平成 30 年 6 月開催の日本司法書士会連合会第 81 回定時総会において、日司連会員研修規則が改正され、会員の研修受講義務が明文化されました。当会もようやく会員全員の研修受講に応え得る体制が整うことから、研修受講料の原則無償化も併せての研修規則一部改正のご提案になります。
引用元:東京司法書士会「令和3年定時総会議事録」より
議案第5号 「東京司法書士会会員研修規則一部改正の件」

上記の通り平成30年度に研修受講義務が定められたものの、罰則規定(ペナルティ)が無いことからか、東京会ではあまり褒められた状況でないことがお分かりかと思います。

司法書士が更新制になったら…

司法書士年代別の構成
引用元:司法書士白書(2016年度版)司法書士の年代別構成

今回、これが研修義務化から更に踏み込んで、もし司法書士が免許更新制だったらどうなってしまうのかについて少し考えてみました。

結論から言うと、他の免許制の例(教師、医師、運転)を見ても、余程のこと(更新忘れ等)が無い限り、失効する人はいないので、基本的に何ら変わりないのではないかと思います。仮に資格を失効させるとした場合に、復帰させる道筋や基準もセットで考えなくては混乱を招くだけです。

司法書士の職域は広く、登記、訴訟(過払い含む)、商事法務(渉外)、後見等すべての領域の知識を最高水準で維持するのは非常に困難です。なので、どの司法書士または法人もいずれかの領域に特化している事(分業制)が多いですし、過払い事件ばっかり受任している司法書士が登記実務が全然わからないなんて、結構普通にある事です。

司法書士にとって大切なことは「知識」ではない

また、知識量が実務レベルに比例するかと言われればその様な事もありませんので、更新の際に司法書士試験の様にテストなどで知識量を測ってもあまり意味が無いのです。司法書士の真価は、「どれだけ知っているか」というよりも、むしろ初めて出会った事象や判断に迷う時にどの様に乗り越えるかという「対応力・柔軟性」や依頼者に寄り添える「ホスピタリティ・倫理意識」にあると言えるからです。極論言えば、自分が分からない事は、先例や関連書籍で調べるか、知見のある第三者に聞けばいいのです。倫理意識については人間性そのものであり、状況に左右される要素であり、考査や短時間の面接等で測れるようなものでは無いのです。

更新拒絶の際、どのように復帰させるのか

ちなみに更新拒絶されなかった場合、「復帰したければ再度試験を受けなおせ」と言われたら悪夢でしょうね…試験合格者なら理解していただけると思いますが、司法書士試験の予備校講師でもない限り、現役の司法書士といえども司法書士試験を再度受けて再度合格する確率は低いです(みなオジなんて、今受けたら「足切り」でしょう…)。

かつて試験を突破した者だからこそ、もう一度試験を受けなおして合格するという事がいかに困難か実感できるので、再試験=事実上の死刑宣告です。(それ以前に合格できるできないに関わらず、1年間勉強しなければならないなんてあまりにも非生産的で、やる気が起きないでしょう。)

そんな訳で、仮に更新拒絶をした場合に、復帰時にどの水準であれば実務に耐えられるレベルかを検証するのも困難だし、更新時に(落とす余地のある)考査をして振るい分けをするのは止そう、となる訳です。会員の業務水準の維持は司法書士会の重要な問題であるにも関わらず、この様な理由から誰もこのパンドラの箱(「実質的」更新制)を開けようとしないのです。

個人的には「形式的」更新制であれば試みてみるのも良いと思いますが、おそらく教師の免許更新の様に、忙しい時期に何十時間の研修時間を確保して、見覚えのある内容の倫理研修や改正法の講義を受けて無事更新という、まさに更新制の形骸化というシナリオ(そして、更新忘れによる失効という弊害が続出した後、更新制は廃止)に進む事が容易に予想されます。

生涯現役の資格であるが故のジレンマ

更新制と関連する問題として、「司法書士資格自体に年齢制限がない」という制度上の問題があります。もちろん年齢制限はありませんが、登録取り消しの事由として、「心身の故障により業務を行うことができないとき」(司法書士法第16条第1項2号)が定められていて、誰もが死ぬまで司法書士でいられるという保証はありません。

改正前は本人の「後見・保佐開始が欠格事由」(旧法第5条2号)になっていて、明確な線引きがありましたが、改正により認知症もしくは認知症の一歩手前になっていても、事務所に出てただ置物の様に座っている状況でも「業務」だと言い張ってしまう余地が理論上は出てきてしまったと言えます。こうなると、資格者自らがどのように身を引くか、もしくは適切な業務水準を維持できない場合に周りがどのように引導を渡すかという引き際の問題が出てきます。一般に知的職業と言われる司法書士にあって、その衰えを認めるというのは中々に勇気がいるのではないでしょうか。

ちなみに教師の例を挙げると、例えば、公立学校教師は地方公務員の扱いになるので、国家公務員の定年を基準として各地方自治体の条例で定められ、私立校教師はその学校法人の就業規則で定められます(多くは60~65歳で定年)。

一方、医師は、国立病院機構は医師の定年を65歳と定められています。民間の病院では定年制は敷いていない所も多く、開業医の場合は事実上死ぬまで医師を続ける事ができます。(聖路加国際病院院長だった日野原重明先生などはまさに生涯現役の鏡でした。)

また、運転免許証についても年齢制限はなく、何度でも更新が可能ですが、社会問題となった高齢者の危険運転や事故を受けて自主返納が最近話題に取り上げられています。

司法書士の知識は実務で得るもの?

そもそも論ですが、常に実務に携わっている司法書士であれば、色々な事例に遭遇して場数を踏むことで、そこから学ぶことが多いことから、机上の研修を軽んじる傾向があるのも事実かも知れません。そのことが、先ほどの東京会の「単位制研修」0単位者が1972名という所に現れているのかも知れません。)

さいごに

士業間競争は年々激化しており、DXやフィンテック・不動産テック等の新たな波が司法書士業界を飲み込もうといている状況を鑑みれば、上記の更新制や研修も含めた司法書士制度が現状維持で良いと判断するのは少々危険な考えなのかもしれません。そういう危機感を持っている司法書士は若手を中心にかなりの数いると思われ、実際に制度改革に動く様子もあるようです。次回は「司法書士養成と試験制度」に触れてみたいと思います。

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港区オジさん(みなオジ)です。
長い極貧オジさん生活を経て、いつの間にか小金持ちのアーリーリタイアオジさんにクラスチェンジしました!
投資家と司法書士の肩書を有する一方、妻の尻に敷かれるちょい駄目オジさんの異名も持つ。