「会社に頼らない生き方を模索しましょう」と事ある毎にこのブログで言ってきましたが遂に、一企業のトップからこんな発言が出てきましたね。
関連過去ブログ:企業における「働き方改革」「多様性の尊重」を考えるは→コチラ
サントリー新浪社長「45歳定年制」を提言 定年延長にもの申す
サントリーホールディングスの新浪剛史社長が、副代表幹事を務める経済同友会の夏季セミナーで「45歳定年制」を導入すべきだと提言し、SNSなどで話題を集めた。(中略)
政府の経済財政諮問会議の議員でもある新浪氏はアベノミクスについて「最低賃金の引き上げを中心に賃上げに取り組んだが、結果として企業の新陳代謝や労働移動が進まず、低成長に甘んじることになった」と総括。「日本企業はもっと貪欲(どんよく)にならないといけない」と訴え、日本企業が企業価値を向上させるため、「45歳定年制」の導入によって、人材の流動化を進める必要があると述べた。
引用元:朝日新聞デジタル9/10(金) 配信
目次
新浪社長とはどのような経営者か
まず新浪社長とはどんな経営者かという所から見ていきますと、慶応大卒のエリートで三菱商事を経てローソンの社長等を歴任した後、2014年にサントリーの社長に就任した方です。当時、業績不振だったローソンを立て直す実績を積み、サントリーの先代社長から外様初の社長就任を請われて入社したという、まさにピカピカのキャリアの持ち主ですね。
会社→従業員へのリスク転嫁
で、今回の発言が原因でSNSが炎上した様ですが、みなオジ的には新浪社長は基本的に間違った事は言っていないと感じました。この発言の裏には上記の記事の通り、「日本企業はもっと貪欲に」と言う想いがあり、そして、その為には「45歳定年制」の導入によって、人材の流動化を進める必要がある、と言う持論に繋げたのです。現状の分析と「人材の流動化」という企業のあるべき姿は正しいのですが、問題は「45歳定年制」が唐突過ぎ&その制度への橋渡しとなるべき施策、例えば社員教育や社内制度に言及が無くスッカスカという事で、ただ単に会社の抱えるリスクを社員に転嫁しただけだろうという批判を受けたというのが事の経緯だと思います。
確かに働いている従業員からするとたまったもんじゃありません。そもそも、日本企業は新卒重視の人事制度(年功序列、終身雇用制度)を引いており、日本のサラリーマンもそれを承知の上で若い頃の安月給をガマンして身を粉にして企業に尽くしてきている訳です。
それが、これから給与が上がりやりがいのある仕事を任されると思っていた45歳で、会社から選別されて最悪放出されてしまうかもしれないという構想をぶち上げられた訳ですから、従業員側としては激おこになるのも無理はありません。しかもこの発言が、サラリーマン気質の欠如した創業者や学者の先生が言うならまだ理解できるものの、同じサラリーマンの雇われ社長の新浪社長に言われたのでカチンときたというのが本音ではないでしょうか?
火消しに奔走
ちなみに、この炎上を受け当の新浪社長は、9月10日の記者会見で「首切りをするということでは全くない」と釈明した上で「45歳は(人生の)節目」とした上で、「スタートアップ(への転職)とか、社会がいろいろな選択肢を提供できる仕組みが必要だ。場合によっては出戻りがあってもいい」と火消しに走った様です。
みなオジも45歳は確かに人生の振り返りポイントだと思っていて、その時自分を客観的に見る事が出来ないと「茹でガエル」状態になってしまい、時すでに遅しだと過去ブログ「会社で出世を諦めた時に考えるべきこと」で述べています。
関連過去ブログ:会社で出世を諦めた時に考えるべきことは→コチラ
危機意識欠如の多い社員も多いが…
もちろん経営者と従業員の目線は全く違います。少なからず人件費を「コスト」として見てしまう事は経営者にはあるでしょう(コロナ禍の様な先行き不安な情勢では、特に)。サントリーの様な大企業ですと一定程度、危機感の薄いぶら下がり従業員もいるので、そういう社員にもう少し自覚をもって欲しいという潜在意識もあったのかも知れません。
しかし、企業側も年功序列&終身雇用制というアメをぶら下げて、20~30代の若い労働力を安い給与でこき使っている訳ですから、仮に45歳定年制を打ち出すにしても、その制度を補完する様な施策を同時に打ち出さないと労働力の搾取となる訳で、持続可能な組織を目指す企業としては未熟であると言わざるを得ません。(少なくとも、国側は「65歳以上の雇用延長」を既定路線としている訳ですから、それと相反する取組みと言える「45歳定年制」は企業の雇用義務放棄と非難されても仕方が無いでしょう…)
その施策は副業の解禁や働き方の多様化を認める人事制度や考課制度と言った1社で取り組めるものから、新卒一括採用の廃止と言った業界一体となって取り組むべき施策もあるでしょう。そういう施策無く、漠然と45歳定年制を打ち出されても実際にそれに適応できるサラリーマンはほとんどいないでしょう。(特に家庭を顧みず会社一本で尽くしてきた様な忠誠心の高いサラリーマンは。)
新たな施策もあるとのフォローも上滑り感が…
なお、釈明会見の補足コメントで、新浪社長は以下の様に述べています。
「自身の考えるしくみは、45歳を迎えても「希望される方々とは契約するのが前提」と述べ、会社側がその後の仕事の機会をつくる必要性に言及した。さらに「国がリカレント教育(学び直し)や職業訓練をするのが前提になる」と語り、再び仕事に就くための教育を進めていく重要性も強調した。
引用元:朝日新聞デジタル9/10(金) 配信
ここでいう、「会社側がその後の仕事の機会をつくる必要性」と言うのは、電通が制度を立ち上げた「従業員の個人事業主化」制度に類似するものなのでしょうか。
ちなみにこの電通方式の個人事業主化についての続報がほとんど耳に入ってきませんが、確か契約上では退職前に応じた年収が漸減する報酬制度を採用していたので、個人事業主に切り替えた後の数年間は報酬額に見合う業務を割り振っているはずです。その為、しばらくは能力の劣った元従業員にもそれなりに業務を与えていくので不満は噴出しないのでしょうが、今後独立した従業員間で勝ち組負け組がはっきりしてくるので、その時に改めて報道されて個人事業主化という新たな働き方に一石が投じられるのではないでしょうか。
関連過去ブログ:働き方考察(前篇)は→コチラ
関連過去ブログ:働き方考察(後編)は→コチラ
企業側も慎重に見極めるべし
企業側から見てもこれは賛否の分かれる議論であって、45歳定年制を打ち出せる、言い換えれば人材の流動化に耐えられる企業は、学生や転職市場で人気のある一握りの上場・有名企業であり、知名度が低く給与水準で競争力のない一般の企業は人材難に陥るのは明白なので、これらの企業が人件費削減だと言って安易に新浪プランに飛びつくと逆に自らの首を絞める結果になるのではと懸念しています。そういう意味で、この発言は、サントリーの利益の追求を最優先したもの、つまりは「大企業の驕り」であると言え、日本を真に憂い正しい道に導きたいという崇高な理念があるようには到底思えません。(ポジショントークの最たるものでしょう)
とはいえ、(教育主体がどこかは分かりませんが、)リカレント教育の重要性は益々高まると思うので、仕事だけに打込むのではなく自己啓発にも力を入れてサラリーマン生活を悔いのないものにしていきましょう。